香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第一章

第一章 总则 /第一章 総則

第一条 为坚定不移并全面准确贯彻“一国两制”、“港人治港”、高度自治的方针,维护国家安全,防范、制止和惩治与香港特别行政区有关的分裂国家、颠覆国家政权、组织实施恐怖活动和勾结外国或者境外势力危害国家安全等犯罪,保持香港特别行政区的繁荣和稳定,保障香港特别行政区居民的合法权益,根据中华人民共和国宪法、中华人民共和国香港特别行政区基本法全国人民代表大会关于建立健全香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制的决定,制定本法。

第一条 「一国二制度」と「港人港治」ならびに高度な自治の方針、国家安全の維持、また香港特別行政区における国家分裂、国家政権の転覆、外国ならびに国外の勢力と結託して国家安全等に危害を加える犯罪を予防し処罰することを、そして香港特別行政区の繁栄と安定を維持することを、香港特別行政区の住民の合法的な権利と利益を保障することを、これらを揺るぎなくまた全面的に確かに貫徹するために、中華人民共和国憲法香港特別行政区基本法、そして全国人民代表大会における香港特別行政区の健全な国家安全維持の法律制度を設立し執行する決定を根拠として、本法を制定する。

本法の目的規定。複数の目的を、統一感なくばらばらと列記。

 

第二条 关于香港特别行政区法律地位的香港特别行政区基本法第一条和第十二条规定是香港特别行政区基本法的根本性条款。香港特别行政区任何机构、组织和个人行使权利和自由,不得违背香港特别行政区基本法第一条和第十二条的规定。

第二条 香港特別行政区の法的地位を定めた香港特別行政区基本法第一条ならびに第十二条の規定は、香港特別行政区基本法における最も基礎的な条項である。香港特別行政区におけるすべての(国家)機構、組織ならびに個人が行使する権利と自由は、香港特別行政区基本法第一条ならびに第十二条の規定に背いてはならない。

香港の地位に関する基本法1条(中国の一部)及び12条(高度の自治等)を「根本性条款」と位置付けているが、その根拠は不明。香港の機構、組織及び個人はこの2か条に違反してはならないとしているが、自明のことであり意義に乏しい。

 

第三条 中央人民政府对香港特别行政区有关的国家安全事务负有根本责任。

香港特别行政区负有维护国家安全的宪制责任,应当履行维护国家安全的职责。

香港特别行政区行政机关、立法机关、司法机关应当依据本法和其他有关法律规定有效防范、制止和惩治危害国家安全的行为和活动。

第三条 中央人民政府は香港特別行政区における国家安全に対する事柄に本質的な責任を負う。

香港特別行政区は国家安全を維持する責任を負い、国家安全を維持する職責を履行すべきである。

香港特別行政区における行政機関・立法機関・司法機関は本法および他の関連する法律規定に基づいて、国家安全に危害を加える行為や活動を制止し処罰しなければならない。

1項で、中央人民政府が香港の国家安全事務に「根本责任」を負う旨を規定。基本法及び中華人民共和国憲法(以下「憲法」という。)に同様の規定はなく、創設的な規定とも考えられる。「根本责任」の内容は不明。なお、憲法28条は国家それ自身に国家の安全維持義務を課している。2項で香港特別行政区の国家安全維持の「宪制责任」を規定。その意味するところは不明だが、「憲法の定める責任」という意味だとするならば、憲法28条の国家の安全維持義務のことか。そうであるならば、同条の義務が特別行政区憲法31条)にも適用されることについて、何らかの説明が必要。一般に、憲法の規定はそもそも特別行政区には適用されないのか、あるいは適用はされるが特別行政区の特殊性により排除されるものもあると考えるのか、ということ自体に議論の余地あり。以下の規定でも香港に対して種々の義務を課しているが、それが憲法の規定を確認し、若しくは具体化したものなのか、又は国安法が創設した義務なのかは、個々に議論の余地あり。3項で香港の行政機関、立法機関及び司法機関が本法その他関係法律に基づく義務を負うことを確認的に規定。

 

第四条 香港特别行政区维护国家安全应当尊重和保障人权,依法保护香港特别行政区居民根据香港特别行政区基本法和《公民权利和政治权利国际公约》、《经济、社会与文化权利的国际公约》适用于香港的有关规定享有的包括言论、新闻、出版的自由,结社、集会、游行、示威的自由在内的权利和自由。

第四条 香港特別行政区の国家安全維持は人権を保障し尊重し、香港特別行政区基本法及び『市民的及び政治的権利に関する国際規約』・『経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約』を香港において適用している関係規定に基づき、言論・報道・出版・結社・行進・デモの自由を含む自由の権利を有する。

基本法及び自由権規約社会権規約を香港に適用する関係規定による人権保障について確認。国安法の制定に伴い、基本法その他の法律を改廃しているわけではないので、当然のことを確認した規定。自由権規約社会権規約は香港に直接適用されないことに注意が必要。自由権規約の香港での実施法である人権法案条例については、本法62条で、本法と抵触する規定は適用が排除されると考えられる。「适用于香港」は、他の箇所と表記を統一して「适用于香港特别行政区」とすべき。立法の不備。なお、6条1項に「香港同胞」という語が出てくるが、これは「香港同胞」で1語と考えるべきか。52条の「中国人民解放军驻香港部队」も同様。

 

第五条 防范、制止和惩治危害国家安全犯罪,应当坚持法治原则。法律规定为犯罪行为的,依照法律定罪处刑;法律没有规定为犯罪行为的,不得定罪处刑。

任何人未经司法机关判罪之前均假定无罪。保障犯罪嫌疑人、被告人和其他诉讼参与人依法享有的辩护权和其他诉讼权利。任何人已经司法程序被最终确定有罪或者宣告无罪的,不得就同一行为再予审判或者惩罚。

第五条 国家安全に危害を加える行為を予防し制止し処罰する際には、法治の原則に則るべきである。法律に規定のある犯罪行為については、法律に基づいて裁かれ、法律に規定のない犯罪行為については、これを裁かれることはない。

いかなる人も司法機関で刑が定められる前は等しく無罪と推定する。容疑者、被告人および訴訟に関係するその他すべての人は、法律に基づき弁護を受ける権利とそのほかの訴訟に関係する権利を保障される。いかなる人も、一度司法の手順を踏んで有罪または無罪の最終決定が出たあとに、再び同じ行為について裁判にかけられたり処罰を受けたりすることはない。

1項で法治の原則及び罪刑法定主義を明記。中国刑法3条と同旨。なお、「危害国家安全犯罪」という語はこの法律中に22回出てくるが、定義はされていない。本法第3章に規定された犯罪のみを指すのか、それ以外の犯罪も含まれるのかは不明だが、55条等では「本法规定的危害国家安全犯罪案件」とあえて明記していることから、それ以外の「危害国家安全犯罪」には第3章に規定された犯罪以外も含まれると解するべきか。2項はいわゆるdue processに関する規定。いずれも基本法及び人権法案条例にも同様の規定があり、香港の既存の刑事法についてこの規定を適用する意義は乏しい。本法に基づき新設される刑事実体法・手続法について、確認的に規定したものか。

 

第六条维护国家主权、统一和领土完整是包括香港同胞在内的全中国人民的共同义务。

在香港特别行政区的任何机构、组织和个人都应当遵守本法和香港特别行政区有关维护国家安全的其他法律,不得从事危害国家安全的行为和活动。

香港特别行政区居民在参选或者就任公职时应当依法签署文件确认或者宣誓拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法,效忠中华人民共和国香港特别行政区。

第六条 国家主権を維持し、統一を保ち、領土保全を保証することは、香港人を含む全中国人民の共同義務である。

香港特別行政区におけるいかなる機関・組織・個人も、本法と香港特別行政区の国家安全の維持に関するそのほかの法律を遵守し、国家安全に危害を加える行為または活動に従事してはならない。

香港特別行政区の住民が選挙に立候補、または公職に就任した時は、法律に基づき文書に署名する、または宣誓するという方法で、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠を確認しなければならない。

1項で、国家の主権、統一及び領土の一体性の維持が香港市民を含む中国人民の義務であることを規定。憲法52条の中国公民の国家統一・民族団結の維持義務と類似しているが、必ずしもそれに包含されるものではないと考えられる。香港市民を含む中国人民に対して、新たな義務を創設した規定か。「香港同胞」について定義はないが、中国人民の例示の1つであり、中国国籍を有しない者は含まれないと考えられる。2項で国家の安全を害する行為の禁止を総則的に規定。具体的な内容は本法の各条項で明記。3項は立候補者及び公職に就任する者の宣誓義務・忠実義務に関する規定。一部の公務員については基本法104条に同旨の規定があるが、義務が及ぶ者の範囲を拡大している。公務員ではないただの立候補者にも義務を課している趣旨は(DQを連発すること以外には)不明。なお、日本国憲法99条も公務員一般について憲法尊重擁護義務を課しているが、それ以外の国民一般には義務は課されていない。