香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第三章

第三章 罪行和处罚/第3章 犯罪行為および処罰

第一节 分裂国家罪/第一節 分裂国家罪

※中国刑法についての知識がないと、理解が困難な規定。日本刑法とは異なる概念が用いられており、用語も難解。

※中国刑法第2編第1章(102条~113条)にも「危害国家安全罪」があり、総則で国外犯処罰も明記されているが、本法3章との関係が十分に整理されているかはやや疑問。

 

第二十条 任何人组织、策划、实施或者参与实施以下旨在分裂国家、破坏国家统一行为之一的,不论是否使用武力或者以武力相威胁,即属犯罪:

  (一)将香港特别行政区或者中华人民共和国其他任何部分从中华人民共和国分离出去;

  (二)非法改变香港特别行政区或者中华人民共和国其他任何部分的法律地位;

  (三)将香港特别行政区或者中华人民共和国其他任何部分转归外国统治。

  犯前款罪,对首要分子或者罪行重大的,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑;对积极参加的,处三年以上十年以下有期徒刑;对其他参加的,处三年以下有期徒刑、拘役或者管制。

第二十条 いかなる人も、以下に定める国家分裂・国家統一の破壊に当たる行為の一つでも組織したり画策したり実施したり参加したりした場合は、武力の使用または武力を使った威嚇の有無に関わらず、犯罪とする。

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地域を中華人民共和国から切り離そうとすること

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地域の法的地位を違法に改変しようとすること

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地位を外国に帰属させようとすること

前項の犯罪について、首謀者もしくは罪が重大だと認められる場合には、無期懲役もしくは十年以上の有期刑に、積極的に参加した人は三年以上十年以下の有期刑に、その他の参加者は三年以下の有期刑もしくは労役または保護観察とする。

1項各号に掲げる国家分裂行為、国家統一の破壊行為について、組織、計画、実施又は参加した場合に、武力を使用したか武力による威嚇かを問わず犯罪とするもの。2項で行為者の役割の類型に応じて法定刑の軽重を定めている。

 

第二十一条 任何人煽动、协助、教唆、以金钱或者其他财物资助他人实施本法第二十条规定的犯罪的,即属犯罪。情节严重的,处五年以上十年以下有期徒刑;情节较轻的,处五年以下有期徒刑、拘役或者管制。

第二十一条 いかなる人も他人が本法二十条に定める犯罪行為を行うために扇動・協助・教唆・金銭やその他の財産をもって支援した場合には、犯罪行為とする。事の内容が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑に、事の内容が軽微な場合には五年以下の有期刑、労役または保護観察とする。

前条の犯罪への煽動、幇助、教唆等を処罰する規定。まず犯罪類型を規定した上で、その中で「犯情が重大なもの」と「犯情が比較的軽微なもの」でそれぞれ法定刑を分けるのは、中国の刑罰規定にはよく見られるが、香港刑法には見られない。以下も同様。

 

第二节 颠覆国家政权罪/第二節 転覆国家政権罪

第二十二条 任何人组织、策划、实施或者参与实施以下以武力、威胁使用武力或者其他非法手段旨在颠覆国家政权行为之一的,即属犯罪:

  (一)推翻、破坏中华人民共和国宪法所确立的中华人民共和国根本制度;

  (二)推翻中华人民共和国中央政权机关或者香港特别行政区政权机关;

  (三)严重干扰、阻挠、破坏中华人民共和国中央政权机关或者香港特别行政区政权机关依法履行职能;

  (四)攻击、破坏香港特别行政区政权机关履职场所及其设施,致使其无法正常履行职能。

  犯前款罪,对首要分子或者罪行重大的,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑;对积极参加的,处三年以上十年以下有期徒刑;对其他参加的,处三年以下有期徒刑、拘役或者管制。

第二十二条 いかなる人も、武力・武力を用いた威嚇行為・またはその他の違法な手段をもって、以下に定める国家政権転覆の行為の一つでも組織したり画策したり実施したり参加したりした場合には、犯罪とする。

中華人民共和国憲法が確立した中華人民共和国の重要な制度を転覆したり破壊したりすること

中華人民共和国の中央政権機関もしくは香港特別行政区の政権機関を転覆すること

中華人民共和国の中央政権機関もしくは香港特別行政区の政権機関が法に基づいて履行しようとする職務を深刻に邪魔したり阻んだり破壊したりすること

香港特別行政区の政権機関の職務を履行するための場所および設備を、正常な職務の履行が不可能なほどに攻撃または破壊すること

前項の犯罪について、首謀者もしくは罪が重大だと認められる場合には、無期懲役もしくは十年以上の有期刑に、積極的に参加した人は三年以上十年以下の有期刑に、その他の参加者は三年以下の有期刑もしくは労役または保護観察とする。

1項各号に掲げる国家政権転覆行為について、組織、計画、実施又は参加した場合に犯罪とするもの。4号は、例えば昨年7月1日の立法会占拠を念頭に置いたものか。2項で行為者の役割の類型に応じて法定刑の軽重を定めている。

 

第二十三条 任何人煽动、协助、教唆、以金钱或者其他财物资助他人实施本法第二十二条规定的犯罪的,即属犯罪。情节严重的,处五年以上十年以下有期徒刑;情节较轻的,处五年以下有期徒刑、拘役或者管制。

第二十三条 いかなる人も他人が本法二十二条に定める犯罪行為を行うために扇動・協助・教唆・金銭やその他の財産をもって支援した場合には、犯罪行為とする。事の内容が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑に、事の内容が軽微な場合には五年以下の有期刑、労役または保護観察とする。

前条の犯罪への煽動、幇助、教唆等を処罰する規定。

 

第三节 恐怖活动罪/第三節 テロ活動罪

第二十四条 为胁迫中央人民政府、香港特别行政区政府或者国际组织或者威吓公众以图实现政治主张,组织、策划、实施、参与实施或者威胁实施以下造成或者意图造成严重社会危害的恐怖活动之一的,即属犯罪:

  (一)针对人的严重暴力;

  (二)爆炸、纵火或者投放毒害性、放射性、传染病病原体等物质;

  (三)破坏交通工具、交通设施、电力设备、燃气设备或者其他易燃易爆设备;

  (四)严重干扰、破坏水、电、燃气、交通、通讯、网络等公共服务和管理的电子控制系统;

  (五)以其他危险方法严重危害公众健康或者安全。

  犯前款罪,致人重伤、死亡或者使公私财产遭受重大损失的,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑;其他情形,处三年以上十年以下有期徒刑。

第二十四条 中央人民政府・香港特別行政区政府または国際組織を脅迫し、または公衆を威嚇し脅し、もって政治的主張を実現しようと計画して、以下に定める社会に重大な危害を加えるテロ活動をひとつでも引き起こすことまたはひき起こそうとすることを、組織したり画策したり実施したり参加したり実施すると脅迫した場合には、犯罪とする。

⑴人に的確に向けられた重大な暴力

⑵爆発したり放火したりまたは毒のある物質・放射性の物質・伝染病の病原体などを放ったりすること

⑶交通手段・交通設備・電力設備・ガスまたはその他の燃えやすく爆発しやすい設備を破壊すること

⑷水・電気・ガス・交通・通信・インターネットなどの公共サービスおよびそれらを管理するサーバーなどを深刻に阻害したり破壊したりすること

⑸その他の危険な方法をもって公衆の健康または安全に重大な危害を加えること

前項の犯罪行為で、他人に重傷を負わせる・死亡させた場合、または公的・私的財産に重大な損失を与えた場合には無期懲役または十年以上の有期刑とし、他の状況については、三年以上十年以下の有期刑とする。

一定の目的の下で、1項各号に列記された態様でテロ活動に組織、計画、実施等した場合に犯罪とするもの。中央人民政府及び香港政府と並んで脅迫の対象となる「国際組織」に、何が含まれるのかは不明。2項は法定刑の規定。1項の行為により致死傷等の結果が生じた場合には刑を加重。

 

第二十五条 组织、领导恐怖活动组织的,即属犯罪,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑,并处没收财产;积极参加的,处三年以上十年以下有期徒刑,并处罚金;其他参加的,处三年以下有期徒刑、拘役或者管制,可以并处罚金。

  本法所指的恐怖活动组织,是指实施或者意图实施本法第二十四条规定的恐怖活动罪行或者参与或者协助实施本法第二十四条规定的恐怖活动罪行的组织。

第二十五条 テロ組織を組織したり率いたりすることは犯罪とし、無期懲役または十年以上の有期刑とし、財産は没収する。積極的に参加した者は三年以上十年以下の有期刑とし、罰金を科す。その他の参加者は三年以下の有期刑・労役・または保護観察とし、罰金を科すこともできる。

本法の指すテロ活動組織とは、本法二十四条に定めるテロ活動の罪の行為を実施もしくは実施しようと意図する、または本法二十四条に定めるテロ活動の罪の行為に参加し、または実施の協助をする組織を指す。

1項でテロ活動組織への首謀、参加等の態様に応じて法定刑の軽重を規定した上で、2項でテロ活動組織を定義。定義規定の置き場所についてはやや疑問。1項と2項をまとめるのが読みやすいか。

 

第二十六条 为恐怖活动组织、恐怖活动人员、恐怖活动实施提供培训、武器、信息、资金、物资、劳务、运输、技术或者场所等支持、协助、便利,或者制造、非法管有爆炸性、毒害性、放射性、传染病病原体等物质以及以其他形式准备实施恐怖活动的,即属犯罪。情节严重的,处五年以上十年以下有期徒刑,并处罚金或者没收财产;其他情形,处五年以下有期徒刑、拘役或者管制,并处罚金。

  有前款行为,同时构成其他犯罪的,依照处罚较重的规定定罪处罚。

第二十六条 テロ活動組織・テロ活動人員・テロ活動の実施ために、訓練・武器・情報・資金・物資・役務・運輸・技術・場所などを提供して便宜をはかった場合、または爆発性・毒性・放射性のある物質・伝染病の病原体を製造または違法に所持し、その他の方法をもってテロ活動の実施の準備した場合には、犯罪とする。状況が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑とし、罰金または財産の没収を科す。その他の状況については、五年以下の有期刑・労役または保護観察とし、罰金を科す。

前項に定める犯罪行為に加えて、同時に他の犯罪を構成する場合は、処罰の法定刑を比較して処刑する。

1項前段で、テロ活動組織、テロ活動人員等に対して訓練、武器、情報、資金等を提供する行為を犯罪とする。「テロ活動人員」については、なぜか定義規定なし。後段で「犯情が重大なもの」と「それ以外」でそれぞれ法定刑を分けている。2項は、1項の行為が同時に他の犯罪も構成する場合に、法定刑が重い方で処罰する旨の規定。日本でいう観念的競合(日本刑法54条1項前段)のことか。仮にこの規定がなかった場合の罰則の適用関係は不明だが、なくても同じ結論になるのであれば、2項は確認的な規定。

 

第二十七条 宣扬恐怖主义、煽动实施恐怖活动的,即属犯罪。情节严重的,处五年以上十年以下有期徒刑,并处罚金或者没收财产;其他情形,处五年以下有期徒刑、拘役或者管制,并处罚金。

第二十七条 テロ主義を宣伝すること、またテロ活動の実施を煽動することは犯罪とする。状況が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑とし、罰金または財産の没収を科す。その他の状況については、五年以下の有期刑・労役または保護観察とし、罰金を科す。

テロリズムの宣揚及びテロ活動の煽動を犯罪とするもの。街頭での活動、ネットの書き込み等も、態様によっては(あるいは当局の気分次第で)宣揚又は煽動に当たり得るのかは不明。「犯情が重大なもの」と「それ以外」でそれぞれ法定刑を分けている。

 

第二十八条 本节规定不影响依据香港特别行政区法律对其他形式的恐怖活动犯罪追究刑事责任并采取冻结财产等措施。

第二十八条 本節の規定は、香港特別行政区の法律に依拠して、他のテロ活動犯罪について刑事責任を追求したり財産を凍結したりする措置には影響しない。

本節の規定は、香港法に基づくテロ活動への刑事責任及び財産凍結等の措置に影響を与えない旨の規定。一般に、本法の規定と香港法の規定が異なる場合には香港法の規定の適用が排除されるが(62条)、28条はその例外規定。

 

第四节 勾结外国或者境外势力危害国家安全罪/第4節 外国勢力又は境外勢力と結託して国家安全に危害を及ぼす罪

第二十九条 为外国或者境外机构、组织、人员窃取、刺探、收买、非法提供涉及国家安全的国家秘密或者情报的;请求外国或者境外机构、组织、人员实施,与外国或者境外机构、组织、人员串谋实施,或者直接或者间接接受外国或者境外机构、组织、人员的指使、控制、资助或者其他形式的支援实施以下行为之一的,均属犯罪:

  (一)对中华人民共和国发动战争,或者以武力或者武力相威胁,对中华人民共和国主权、统一和领土完整造成严重危害;

  (二)对香港特别行政区政府或者中央人民政府制定和执行法律、政策进行严重阻挠并可能造成严重后果;

  (三)对香港特别行政区选举进行操控、破坏并可能造成严重后果;

  (四)对香港特别行政区或者中华人民共和国进行制裁、封锁或者采取其他敌对行动;

  (五)通过各种非法方式引发香港特别行政区居民对中央人民政府或者香港特别行政区政府的憎恨并可能造成严重后果。

  犯前款罪,处三年以上十年以下有期徒刑;罪行重大的,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑。

  本条第一款规定涉及的境外机构、组织、人员,按共同犯罪定罪处刑。

第二十九条 外国または境外の機構・組織・人員のために、国家安全に影響を与える国家秘密または情報を窃取・スパイ行為・買収・違法に提供する場合ならびに以下の行為のひとつを実施することを外国または境外の機構・組織・人員に対して求める場合、外国または境外の機構・組織・人員と共謀する場合、または直接的あるいは間接的に外国または境外の機構・組織・人員の指図・コントロール・金銭的な援助またはその他の形式の支援を受けて実施する場合は、等しく犯罪とする。

中華人民共和国に対して戦争を発動して、または武力または武力による威嚇をもって、中華人民共和国の主権・統一・領土の保全に対して重大な危害を加えた場合

香港特別行政区政府または中央人民政府が法律・政策を制定または執行することを阻み妨げ、重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

香港特別行政区の選挙の操作を実施し、破壊し重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

香港特別行政区または中華人民共和国に対して制裁を実施・封鎖・または他の敵対行為を取った場合

⑸各種の違法な方法を通じて、香港特別行政区の住民の、中央人民政府または香港特別行政区政府に対する恨みを引き起こし、重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

前項に定める犯罪について、三年以上十年以下の有期刑とする。罪が重大な場合には無期懲役または十年以上の有期刑とする。

本条第一項規定が及ぶ境外の機構・組織・人員は共同犯罪に照らして罪を決定する。

1項前段は外国又は境外の機構等への国家機密の提供の処罰規定。後段は外患誘致等の処罰の対象となる行為を各号列記。「境外」について定義はないが、台湾を念頭に置いたもの。後述の43条の「實施細則」は、台湾と明記している。1号は中華人民共和国との戦争等。2号は香港法又は中国法の執行、政策執行等を阻害し、それにより重大な結果をもたらし得ること。3号は香港の選挙を操作又は破壊し、それにより重大な結果をもたらし得ること。4号は香港又は中華人民共和国への制裁、封鎖その他の敵対的行動。(中国に制裁を行い得る国として、どの国を念頭に置いているかは説明不要。)5号は違法な方法により香港居民の中央人民政府又は香港政府への憎悪を引き起こし、それにより重大な結果をもたらし得ること。5号は「違法な方法により」と明記しているのに対し、4号にはそれがないことから、適法なものを含めあらゆる制裁等を犯罪とする趣旨ともとれる。具体的にどのような場合に適法に制裁を行い得るかについては、国際法の教科書を参照。2号、3号及び5号は、一定の行為が重大な結果をもたらし得ることが要件とされているが、具体的にどのような結果が生じることが想定されているのかは不明。2項は法定刑に関する規定。「犯罪行為が重大なもの(罪行重大的)」については、法定刑を加重。「罪行重大的」という文言は、他の箇所では「对首要分子或者罪行重大的」という書きぶりで、より重い特別類型として一般的な類型より前に置かれているのに対し、同項では「罪行重大的」が一般類型の後に付加されている。法制工作委員会の原案にはなかった規定で、常務委員会での審議の過程で後から付け加わった規定ではないかと想像される。3項は、1項の規定に関係した境外の機構、組織及び人員について「共同犯罪」として処罰する旨の規定。具体的にどのような態様を想定しているのか明らかではないが、境外の機構等については、大陸と同様に中国刑法第1編第2章第3節の「共同犯罪」の規定を適用する趣旨か。

 

第三十条 为实施本法第二十条、第二十二条规定的犯罪,与外国或者境外机构、组织、人员串谋,或者直接或者间接接受外国或者境外机构、组织、人员的指使、控制、资助或者其他形式的支援的,依照本法第二十条、第二十二条的规定从重处罚。

第三十条 本法二十条・二十二条に規定する犯罪を実施しようとして、外国または境外の機構・組織・人員と共謀し、あるいは直接または間接的に外国または国外の機構・組織・人員の指図・コントロール・資金の援助またはその他の形式の支援を受けた場合には、本法二十条・二十二条双方の法定刑の範囲内でより重く処罰する。

20条及び22条の犯罪を行うために外国若しくは境外の機構等の共謀し、又はそれらの支援を受けた場合には、20条及び22条の法定刑の範囲内でより重く処罰する(从重。中国刑法62条参照)旨の規定。

 

第五节 其他处罚规定/第5節 そのほかの処罰規定

第三十一条 公司、团体等法人或者非法人组织实施本法规定的犯罪的,对该组织判处罚金。

  公司、团体等法人或者非法人组织因犯本法规定的罪行受到刑事处罚的,应责令其暂停运作或者吊销其执照或者营业许可证。

第三十一条 会社・団体などの法人あるいは法人でない組織が本法に定める犯罪を実施した場合には、組織として取り扱い当該組織に罰金を科す。

会社・団体などの法人あるいは法人でない組織が本法に規定する罪行を犯し刑事処罰を受けた場合には、責任を持って業務の一時停止を命令、または営業の許可証を取り下げる。

1項は、法人及び法人格のない組織の処罰規定。法人等に自由刑を科すのは不可能なので、財産刑のみ可能。実際に行為を行うのは自然人だが、どのような場合に自然人の行為の効果が法人等に帰属し得るのかは、法人論の重要論点で難しいので省略。日本法には法人格のない組織の処罰は存在せず、本条ではどのような論拠でそれが可能になっているのかは、よくわからないので省略。法人格のない組織にどのようなものが含まれるのかは不明だが、犯罪行為や刑事手続の主体となり、刑罰を科すに足りる程度の実体を備えていることは、当然必要。以上について民法の議論がある程度参考になると思われるが、それを刑事法にも適用することは必然ではない。2項で法人等が刑事罰を受けた場合の業務停止命令等について規定。命令等を行う主体は明記されていない。他の関係法令による業務停止命令等が可能である場合について、命令主体が命令を出すことを促すものか。あるいは、業務停止命令等を行う権限を(当局に対して??)創設的に付与したものであることも考えられるが、そのための手続、命令等の遵守を担保する措置等は規定されていない。趣旨不明の規定。

 

第三十二条 因实施本法规定的犯罪而获得的资助、收益、报酬等违法所得以及用于或者意图用于犯罪的资金和工具,应当予以追缴、没收。

第三十二条 本法に規定する犯罪を実施して獲得した援助・収益・報酬などの違法所得および犯罪に用いた、または用いようと意図した資金や道具は、追納・没収しなければならない。

追徴及び没収に関する規定。追徴及び没収については、中国刑法64条を参照。日本法の「追徴」「没収」とは異なる。

 

第三十三条 有以下情形的,对有关犯罪行为人、犯罪嫌疑人、被告人可以从轻、减轻处罚;犯罪较轻的,可以免除处罚:

  (一)在犯罪过程中,自动放弃犯罪或者自动有效地防止犯罪结果发生的;

  (二)自动投案,如实供述自己的罪行的;

  (三)揭发他人犯罪行为,查证属实,或者提供重要线索得以侦破其他案件的。

  被采取强制措施的犯罪嫌疑人、被告人如实供述执法、司法机关未掌握的本人犯有本法规定的其他罪行的,按前款第二项规定处理。

第三十三条 以下の定める状況においては、犯罪行為を行った人・容疑者・被告人の処罰を法定刑の範囲内で軽減、または法定刑を下回る軽減をすることができる。刑が軽い人は、刑を免除することができる。

⑴犯罪の過程において、自発的に犯罪を放棄した場合、または自発的に犯罪結果の発生を有効に防止した場合

⑵自発的に自首して、事実に基づいて自身のその他の罪行を供述した場合

⑶他人の犯罪行為を告発し、捜査で事実だと証明される、または他の事件の捜査を進めるための重要な手がかりを提供した場合

強制措置を取られた容疑者・被告人が事実に基づいて供述し、行政・司法機関が把握していない本人の本法に規定する他の犯罪があった場合には、前項第二号の規定に基づいて処理する。

1項各号のいずれかに該当する場合は、犯罪行為を行った者、容疑者又は被告人は、法定刑の範囲内でより軽く処罰し(从轻。中国刑法62条参照)、若しくは法定刑より下の刑を科し(减轻。中国刑法63条参照)、又は処罰を免除する旨を規定。被告人ではない、犯罪行為を行った者や容疑者でも処罰されたり刑の免除があり得るかのような規定。そもそも起訴されることがない、という趣旨か? 1号は中止(中国刑法24条)、2号は自首(中国刑法67条1項)、3号は立功(中国刑法68条)に相当。2項は中国刑法67条2項に相当。

 

第三十四条 不具有香港特别行政区永久性居民身份的人实施本法规定的犯罪的,可以独立适用或者附加适用驱逐出境。

  不具有香港特别行政区永久性居民身份的人违反本法规定,因任何原因不对其追究刑事责任的,也可以驱逐出境。

第三十四条 香港特別行政区の永久性居民の身分を持っていない人が本法に規定する犯罪を実施した場合には、独立的にまたは付加的に国外追放を適用することができる。

香港特別行政区の永久性居民の身分を持たない人が本法の規定に違反した場合、いかなる理由でもそれに対して刑事責任を追求しなかった場合でも、国外追放できる。

1項で、本法の罰則規定に違反した永久性居民以外の者の追放を規定。中国刑法35条と同様の規定。追放を刑罰の1つと捉えられていると思われる。2項で、本法の規定(罰則規定のみならず、あらゆる規定)に違反した永久性居民以外の者の追放を規定。

 

第三十五条 任何人经法院判决犯危害国家安全罪行的,即丧失作为候选人参加香港特别行政区举行的立法会、区议会选举或者出任香港特别行政区任何公职或者行政长官选举委员会委员的资格;曾经宣誓或者声明拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法、效忠中华人民共和国香港特别行政区的立法会议员、政府官员及公务人员、行政会议成员、法官及其他司法人员、区议员,即时丧失该等职务,并丧失参选或者出任上述职务的资格。

  前款规定资格或者职务的丧失,由负责组织、管理有关选举或者公职任免的机构宣布。

第三十五条 いかなる人も裁判所を通して国家安全に危害を加える犯罪をしたと判決が出た場合には、香港特別行政区の立法会・区議会に立候補する資格、または香港特別行政区のあらゆる公職または行政長官選挙委員会委員になる資格を失う。かつて中華人民共和国香港特別行政区基本法を保護することを宣誓または声明で誓った場合、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を宣誓または声明で誓った場合も、立法会議員・政府官僚および公務員・行政議会の人員・裁判官およびに他の司法人員・区議会議員は、ただちに該当する職務を失い、上述の職務に立候補または任務に就く資格を失う。

前項に規定した資格または職務の喪失は、関係する選挙の組織および管理に責任を負い、又は公職の任免に責任を負う機構が宣言する。

1項前段で、国家の安全を害する行為を行った旨の判決を裁判所が出した者について、選挙の立候補へのDQを規定。有罪判決が出たことは要件となっていないので、処罰の免除(本法33条)や無罪判決の場合も含まれる。いずれの場合も、判決主文それ自体からは国家の安全を害する行為を行ったかどうかを判断できないので、判断理由中の事実認定から判断することになる。後段で、これらの者が宣誓等を行った立法会議員等である場合の失職を規定。基本法103条及び本法6条3項の宣誓等の主体と必ずしも一致していないが、あえて書き分けているのか、単に整理が不十分だったのかは不明。本条よりも6条3項の主体の方が広く、本条の対象とならない公務員も想定される。2項はDQ、失職等の公告の規定。

 

第六节 效力范围/第六節 効力の範囲

第三十六条 任何人在香港特别行政区内实施本法规定的犯罪的,适用本法。犯罪的行为或者结果有一项发生在香港特别行政区内的,就认为是在香港特别行政区内犯罪。

  在香港特别行政区注册的船舶或者航空器内实施本法规定的犯罪的,也适用本法。

第三十六条 いかなる人も香港特別行政区内で本法に規定する犯罪を実施した場合、本法を適用する。犯罪の行為または結果の一部が香港特別行政区内で発生した場合は、香港特別行政区内の犯罪とみなす。

香港特別行政区内に登記された船舶または航空機内で本法に規定された犯罪を行った場合も、本法を適用する。

本条で「香港特別行政区内」で行われた「あらゆる自然人及び法人等」の犯罪について、37条で「香港特別行政区外」で行われた「香港の永久性居民及び香港で設立された法人等」の犯罪について、38条で「香港特別行政区外」で香港特別行政区に対して行われた「香港の永久性居民以外の自然人」の犯罪について、本法を適用する旨を規定。これらのいずれにも該当しない、①「香港特別行政区外」で行われた「香港で設立されたものではない法人等」の犯罪及び②「香港特別行政区外」で行われた「香港の永久性居民以外の自然人」の犯罪であって香港特別行政区に対して行われたものではないものには、本法は適用されない。36条~38条の場合分けにどのような意義があるのか不明だが、刑事手続において違いが生じ得るか。36条1項前段、後段、2項が、それぞれ中国刑法6条1項、3項、2項に相当。中国刑法6条と規定の順序を入れ替えている理由は不明。なお、同条1項2項は、日本刑法1条と同様の規定。本法36条1項後段の「行為又は結果の一部」に当たるかをどのように判断するのかは不明だが、中国刑法の議論を参照。

 

第三十七条 香港特别行政区永久性居民或者在香港特别行政区成立的公司、团体等法人或者非法人组织在香港特别行政区以外实施本法规定的犯罪的,适用本法。

第三十七条 香港特別行政区の永久性居民または香港特別行政区内で設立された会社・団体などの法人あるいは非法人組織が香港特別行政区以外で本法に規定する犯罪を実施した場合、本法を適用する。

属人管轄に関する規定。

 

第三十八条 不具有香港特别行政区永久性居民身份的人在香港特别行政区以外针对香港特别行政区实施本法规定的犯罪的,适用本法。

第三十八条 香港特別行政区の永久性居民の身分がない人が香港特別行政区以外で香港特別行政区を的確に狙って本法に規定する犯罪を実施した場合には、本法を適用する。

香港特別行政区に対して行われた」という要件は、趣旨不明。行為又は結果の一部が香港で生じた場合には36条1項が適用されるので、その要件を満たさず、なおかつ香港特別行政区に対して行われたものとして犯罪が成立するのは、どのような場合か検討が必要。

 

第三十九条 本法施行以后的行为,适用本法定罪处刑。

第三十九条 本法が施行されて以降の行為に、本法の法定刑を適用する。

本法施行以後の行為について、罰則を適用する旨の規定。事前に報道されていた罰則の遡及適用は、規定されないことになった。本法は公布日施行だが(本法66条)、公布がいつの時点で行われたのかは定かではない。本法が成立したのは6月30日の午前だが、その時点では条文は公布されていなかった。香港では同日午後11時(現地時間)に「実施」され(基本法18条2項。「施行」ではない。香港の官報も「実施」という表現を使っている。)、同時に条文が公開された。仮に公布も同日にされているとすると、施行の時刻を同日0時にまで遡らせるのか、あるいは午後11時を施行の時刻とするのかは不明。仮に前者とすると、施行から香港での実施までの間の行為についても、処罰の対象となる可能性がある。施行の時刻を跨いで継続して犯罪行為を行っていた場合に、同時刻以後の行為にのみ罰則が適用されるのか、前後の行為を一体と考えて罰則を適用するのかは、論点となり得るが細かい話なので省略。