香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第四章

第四章 案件管辖、法律适用和程序/第四条 案件の管轄・法律の適用と手続

第四十条 香港特别行政区对本法规定的犯罪案件行使管辖权,但本法第五十五条规定的情形除外。

第四十条 香港特別行政区は本法に規定する犯罪案件に対して管轄権を行使するが、五十五条の規定に定める状況の場合は除外する。

刑事裁判管轄に関する規定。

 

第四十一条 香港特别行政区管辖危害国家安全犯罪案件的立案侦查、检控、审判和刑罚的执行等诉讼程序事宜,适用本法和香港特别行政区本地法律。

  未经律政司长书面同意,任何人不得就危害国家安全犯罪案件提出检控。但该规定不影响就有关犯罪依法逮捕犯罪嫌疑人并将其羁押,也不影响该等犯罪嫌疑人申请保释。

  香港特别行政区管辖的危害国家安全犯罪案件的审判循公诉程序进行。

  审判应当公开进行。因为涉及国家秘密、公共秩序等情形不宜公开审理的,禁止新闻界和公众旁听全部或者一部分审理程序,但判决结果应当一律公开宣布。

第四十一条 香港特別行政区は国家安全に危害を加える犯罪案件の立案調査・検察・裁判と刑罰の執行などの訴訟手続事務を管轄し、本法と香港特別行政区当地の法律を適用する。

律政司長の書面による同意なくしては、いかなる人も国家安全に危害を加える犯罪案件で検挙し送検されることはない。ただしこの規定は犯罪に関わりのある容疑者を法律に基づき逮捕したり拘束したりすることを妨げるものではなく、容疑者が保釈を申請することを妨げるものでもない。

香港特別行政区が管轄する国家安全に危害を加える犯罪案件の裁判は、公訴手続に従って進行する。

裁判は公開で行わなければならない。国家秘密・公共秩序などの状況におよぶ公開しない方がいい審理の時には、報道関係者や聴衆が全部または一部の審理を傍聴することを禁止することができるが、判決結果は一律に公開・公表しなければならない。

1項は、香港が管轄権を行使する場合の刑事手続について、本法と香港法を適用する旨を規定。57条1項は、国家安全維持公署が管轄権を行使する場合には中国刑事訴訟法等を適用すると規定し、本法と香港法を適用すると明記していない点と対比。2項で起訴には律政司長の書面による同意が必要である旨及びこの規定は逮捕、勾留、保釈等に影響を及ぼさない旨を規定。3項で審理・判決は公訴の手続に沿って行われる旨を規定しているが、1項との関係は不明。確認的な規定か。4項は審理の公開の原則と、その例外として非公開で行う場合を規定。

 

第四十二条 香港特别行政区执法、司法机关在适用香港特别行政区现行法律有关羁押、审理期限等方面的规定时,应当确保危害国家安全犯罪案件公正、及时办理,有效防范、制止和惩治危害国家安全犯罪。

  对犯罪嫌疑人、被告人,除非法官有充足理由相信其不会继续实施危害国家安全行为的,不得准予保释。

第四十二条 香港特別行政区の行政・司法機関が香港特別行政区の現行法の中で拘禁・審理期限などの方面に関する規定を適用するときは、国家安全に危害を加える犯罪案件の公正・適時的な処理を確保しなければならず、国家安全に危害を加える犯罪を有効に防止・制止そして処罰しなければならない。

犯罪の容疑者・被告人は、裁判官がこの容疑者・被告人は国家安全に危害を加える行為の実施を継続することはないと信じるに足る理由がある場合を除いて、保釈を許可してはならない。

1項は香港の執行機関・司法機関に対する訓示規定。2項は、容疑者及び被告人が「国家安全を害する行為の実施を継続しないと信じるに足りる理由がある」場合を除き、保釈を認めない旨を規定。あたかも容疑者・被告人が国家安全を害する行為を既に実施しており、しかも今後も継続するかのような書きぶり。(※無罪推定の原則について、本法5条2項及び基本法87条2項を参照。)

 

第四十三条 香港特别行政区政府警务处维护国家安全部门办理危害国家安全犯罪案件时,可以采取香港特别行政区现行法律准予警方等执法部门在调查严重犯罪案件时采取的各种措施,并可以采取以下措施:

  (一)搜查可能存有犯罪证据的处所、车辆、船只、航空器以及其他有关地方和电子设备;

  (二)要求涉嫌实施危害国家安全犯罪行为的人员交出旅行证件或者限制其离境;

  (三)对用于或者意图用于犯罪的财产、因犯罪所得的收益等与犯罪相关的财产,予以冻结,申请限制令、押记令、没收令以及充公;

  (四)要求信息发布人或者有关服务商移除信息或者提供协助;

  (五)要求外国及境外政治性组织,外国及境外当局或者政治性组织的代理人提供资料;

  (六)经行政长官批准,对有合理理由怀疑涉及实施危害国家安全犯罪的人员进行截取通讯和秘密监察;

  (七)对有合理理由怀疑拥有与侦查有关的资料或者管有有关物料的人员,要求其回答问题和提交资料或者物料。

  香港特别行政区维护国家安全委员会对警务处维护国家安全部门等执法机构采取本条第一款规定措施负有监督责任。

  授权香港特别行政区行政长官会同香港特别行政区维护国家安全委员会为采取本条第一款规定措施制定相关实施细则。

第四十三条 香港特別行政区政府の警務処の国家安全維持部門が国家安全に危害を加える犯罪案件を取り扱うときは、香港特別行政区の現行の法律の中で警察などの行政部門が重大な犯罪案件を調査する際に取ることを許可されている様々な措置を講ずることができ、また以下のような措置も講ずることができる:

⑴犯罪の証拠を有する可能性のある場所・車両・船舶・航空機またはその他の関連する場所と電子設備を捜査する

⑵国家安全に危害を加える犯罪行為を行うおそれのある人の旅行証の提出を要求したり出国を制限したりする

⑶犯罪に用いたまたは用いようとした財産・犯罪から得られた収益など犯罪と関係のある財産を凍結したり、制限・差し押さえ・没収・没収して国有財産にすることを命じたりする

⑷ニュースを発信している人またはプロバイダーに、情報の削除または協力の提供を要求する

⑸外国または境外の政治組織に、外国または境外当局または政治組織の代理人に資料の提供を要求する

⑹行政長官の許可を得て、国家安全に危害を加える犯罪を実施するおそれがあると合理的な理由で認められた人に対して、通信の一部を盗聴したり秘密観察をしたりする

⑺合理的な理由で、捜査に関係のある資料を所有しているまたは関連のある物資を管理していると疑われる人員に対して、質問に答えること、または資料または物資の提出を要求する

香港特別行政区の国家安全維持委員会は警務処国家安全維持部門などの行政機関が本条第一項に規定する措置をとる際に監督責任を負う。

香港特別行政区行政長官香港特別行政区国家安全維持委員会が本条第一項に規定する措置をとるために関連のある実施規定を制定する権限を授与する。

強制捜査に係る特則。1項に「在调查严重犯罪案件时采取的各种措施」を採ることができると明記されており、香港法に関係する規定があるようだが、この書き振りで当該規定を特定できているのかは疑問。「~各种措施」に加えて1項各号の措置も実施可能だが、両者が重複している感がある。なお、5号で外国の政治当局等に対して資料の提供を「要求」できる旨の規定があるが、2号、4号、7号でも「要求」という語が用いられていることと比べると、外国の政治当局等に対しても同様の表現を使うのは不自然。2項で、国家安全維持委員会による警務処の所管部門に対する監督責任を規定。3項で、1項の措置の細目に係る委任を規定。これを受けて「中華人民共和國香港特別行政區維護國家安全法第四十三條實施細則」が制定されており、無令状での捜索等が規定されている(7月6日公布、7月7日施行だが、法律公布から僅か6日で作ったとは思えない膨大な分量)。香港政府は、「實施細則」について「具有法律效力」としており、独自の罰則も制定されているが、立法手続の潜脱であり立法権の侵害ではないか。  

 

第四十四条 香港特别行政区行政长官应当从裁判官、区域法院法官、高等法院原讼法庭法官、上诉法庭法官以及终审法院法官中指定若干名法官,也可从暂委或者特委法官中指定若干名法官,负责处理危害国家安全犯罪案件。行政长官在指定法官前可征询香港特别行政区维护国家安全委员会和终审法院首席法官的意见。上述指定法官任期一年。

  凡有危害国家安全言行的,不得被指定为审理危害国家安全犯罪案件的法官。在获任指定法官期间,如有危害国家安全言行的,终止其指定法官资格。

  在裁判法院、区域法院、高等法院和终审法院就危害国家安全犯罪案件提起的刑事检控程序应当分别由各该法院的指定法官处理。

第四十四条 香港特別行政区の行政長官は、マジストレート裁判所の裁判官・地区法院の裁判官・高等法院の第一審裁判所と控訴院の裁判官および終審法院の裁判官の中から若干名の裁判官を指名しなければならず、また暫委あるいは特委の中から若干名の裁判官を指名することもでき、国家安全に危害を加える犯罪案件の処理の責任を負わせる。行政長官は裁判官を指定する前に、香港特別行政区国家安全維持委員会と終審法院の首席裁判官の意見を求めることができる。上に述べた指定裁判官の任期は1年とする。

 国家安全に危害を加える言動をしたすべての人は、国家安全に危害を加える犯罪案件の審理をする裁判官に指名されることができない。指定裁判官の任期中に国家安全に危害を加える言動があった場合には、指定裁判官の資格を終了する。

 マジストレート裁判所・地区法院・高等法院と終審法院で行われる国家安全に危害を加える犯罪案件に関わる刑事検察手続きは、各裁判所の指定裁判官に分別して処理しなければならない。

1項で、行政長官が、裁判官の中から国家安全犯罪に関する審理を担当する裁判官を指定しなければならない旨を規定。2項で、国家安全を害する言動を行った者は指定できない旨を規定。国家安全を害する言動を行い、かつ、それが「行為不檢」として裁判官の解任事由に当たるならば、そもそも裁判官を解任されるはずなので(基本法89条)、それには至らない程度の言動が想定されるか。指定された裁判官の解任事由は、本項の規定以外にはない。3項で指定された裁判官が刑事手続を処理する旨を規定。

 

第四十五条 除本法另有规定外,裁判法院、区域法院、高等法院和终审法院应当按照香港特别行政区的其他法律处理就危害国家安全犯罪案件提起的刑事检控程序。

第四十五条 本法による規定のほかに、マジストレート裁判所・地区法院・高等法院と終審法院は香港特別行政区のその他の法律にしたがって国家安全に危害を加える犯罪案件の刑事検察手続を行わなければならない。

特段の規定がない限り、香港の法律に基づき刑事手続を行う旨を規定。41条1項と同旨であり、独自の意義に乏しい。

 

第四十六条 对高等法院原讼法庭进行的就危害国家安全犯罪案件提起的刑事检控程序,律政司长可基于保护国家秘密、案件具有涉外因素或者保障陪审员及其家人的人身安全等理由,发出证书指示相关诉讼毋须在有陪审团的情况下进行审理。凡律政司长发出上述证书,高等法院原讼法庭应当在没有陪审团的情况下进行审理,并由三名法官组成审判庭。

  凡律政司长发出前款规定的证书,适用于相关诉讼的香港特别行政区任何法律条文关于“陪审团”或者“陪审团的裁决”,均应当理解为指法官或者法官作为事实裁断者的职能。

第四十六条 高等法院の第一審裁判所が行う国家安全に危害を加える犯罪案件の刑事検察手続きに対して、律政司長は国家秘密の保持に関わる・外交に関連する・または陪審員およびその家族の身の安全の保障などの理由に基づき、証明書を発出して関連する訴訟において陪審員がいる状況で審理を進行する必要はないと指示することができる。律政司長が上述の証明書を発出したすべての時に、高等法院の第一審裁判所は陪審員のいない状況で審理を進行しなければならず、三名の裁判官で法廷を組織する。

律政司長が前項に規定する証明書を発出した時には、関連する訴訟に適用する香港特別行政区のすべての法律の条文の中で「陪審員」または「陪審員の裁判」に関わる条文について、(該当の語を)「裁判官」または「裁判官の事実認定の職務」と置き換えることにする。

1項は、一定の要件を満たした場合に、律政司長が、陪審を排除して裁判官のみで審理を行うよう指示できる規定。2項は関係規定の読替え。

 

第四十七条 香港特别行政区法院在审理案件中遇有涉及有关行为是否涉及国家安全或者有关证据材料是否涉及国家秘密的认定问题,应取得行政长官就该等问题发出的证明书,上述证明书对法院有约束力。

第四十七条 香港特別行政区の裁判所が案件を審理する中である行為が国家安全に影響を与えるかどうか・またはある証拠が国家秘密に関わる問題かどうかに関する事実の認定問題がある時には、行政長官が該当の問題に対して発出した証明書を取得しなければならず、上述の証明書は裁判所に対して拘束力を持つ。

国家安全又は国家機密に関わる事実認定について、裁判所は行政長官が提出する証明書に拘束される旨を規定。いわゆる法定証拠主義(↔自由心証主義)を採用したもの。基本法19条3項にも同様の規定があり、重複する部分もあると思われるが、両者の適用関係については不明。なお、日本刑事訴訟法でも一定の場合に自由心証主義を制限しており、証拠能力や証明力を排除した規定はあるが、法定証拠主義を採用した規定は存在しない。