香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第二章

第二章 香港特别行政区维护国家安全的职责和机构/第二章 香港特別行政区の国家安全維持に関する職責と機構

第一节 职责/第一節 職責

第七条 香港特别行政区应当尽早完成香港特别行政区基本法规定的维护国家安全立法,完善相关法律。

第七条 香港特別行政区はなるべく早く香港特別行政区基本法の国家安全維持に関する立法を完成させ、関連する法律を整備しなければならない。

香港に対して国家安全の維持に関する立法を義務付けた規定。基本法23条と同旨の規定か。そうであるならば意味があるのは「尽早」の部分だけで、独自の意義に乏しい。

 

第八条 香港特别行政区执法、司法机关应当切实执行本法和香港特别行政区现行法律有关防范、制止和惩治危害国家安全行为和活动的规定,有效维护国家安全。

第八条 香港特別行政区の行政機関、司法機関は本法および香港特別行政区の現行の法律の中の国家安全に危害を加える行為および活動を予防し制止し処罰する規定を確実に執行し、国家安全を有効に維持しなければならない。

3条3項の義務を、法律の執行の局面について再度明記した規定であり、独自の意義に乏しい。

 

第九条 香港特别行政区应当加强维护国家安全和防范恐怖活动的工作。对学校、社会团体、媒体、网络等涉及国家安全的事宜,香港特别行政区政府应当采取必要措施,加强宣传、指导、监督和管理。

第九条 香港特別行政区は国家安全の維持とテロ活動を予防する方策を強化しなければならない。学校・社会団体・メディア・インターネット上の国家安全に関わる事柄について、香港特別行政区政府は必要な措置を採り、宣伝・指導・監督・管理を強化しなければならない。

前段で香港特別行政区による国家安全の維持及びテロ防止の強化を規定。後段は、香港政府が学校、社会団体、メディア、ネット等に対して必要な措置をとることを義務付けている規定。具体的な内容は今後政府により明らかにされるか。前段の主語は香港特別行政区、後段の主語は香港政府であることに注意。後段の規定は前段の規定に包含され、その一部を特記したものか。

 

第十条 香港特别行政区应当通过学校、社会团体、媒体、网络等开展国家安全教育,提高香港特别行政区居民的国家安全意识和守法意识。

第十条 香港特別行政区は学校・社会団体・メディア・インターネット等を通して、国家安全教育を展開し、香港特別行政区の住民の国家安全意識と遵法意識を高めなければならない。

香港特別行政区の国家安全教育等に関する措置を特記した規定。前条の規定に包含されると考えられ、9条と10条の関係の整理が不十分な印象を与える。

 

第十一条 香港特别行政区行政长官应当就香港特别行政区维护国家安全事务向中央人民政府负责,并就香港特别行政区履行维护国家安全职责的情况提交年度报告。

如中央人民政府提出要求,行政长官应当就维护国家安全特定事项及时提交报告。

第十一条 香港特別行政区行政長官香港特別行政区の国家安全の維持に関する事柄について中央人民政府に対して責任を負い、合わせて香港特別行政区における国家安全維持に関する職責の履行状況について、毎年年度報告を提出しなければならない。

 中央人民政府から提出の要求があったときには、行政長官は国家安全維持の特定事項について適時報告を提出しなければならない。

1項前段で、行政長官は、中央人民政府に対して国家安全維持事務の責任を負うことを明記。中央人民政府の「根本责任」(3条1項)及び行政長官の中央人民政府への責任がその根拠と考えられる。同項後段及び2項は、中央人民政府への報告義務の規定。

 

第二节 机构/第二節 機構

※組織を新設する旨の規定も公布日施行となっているが、おそらく立法のミス。6月30日の法律施行から7月3日の国家安全維持委員会設立までの間は、法律の定める義務を香港特別行政区が履行できない状態が続いたことになる。本節だけでも公布から施行までの間に準備期間を設けるべき。

 

第十二条 香港特别行政区设立维护国家安全委员会,负责香港特别行政区维护国家安全事务,承担维护国家安全的主要责任,并接受中央人民政府的监督和问责。

第十二条 香港特別行政区は国家安全維持委員会を設立し、香港特別行政区における国家安全維持業務に対する責任を負い、国家安全維持に関する主要な責任を引き受け、合わせて中央人民政府の監督と問責を受ける。

香港に国家安全維持委員会を設置する旨、国家安全維持の「主要責任」(≠根本責任)を負う旨並びに中央人民政府の監督及び問責を受ける旨を規定。「問責」という語は、憲法基本法その他の中国法には管見の限り見当たらず、その意味するところは不明。法律用語ではないと考えられる。なお、共産党には「中国共产党问责条例」等が制定されている。

 

十三条 香港特别行政区维护国家安全委员会由行政长官担任主席,成员包括政务司长、财政司长、律政司长、保安局局长、警务处处长、本法第十六条规定的警务处维护国家安全部门的负责人、入境事务处处长、海关关长和行政长官办公室主任。

香港特别行政区维护国家安全委员会下设秘书处,由秘书长领导。秘书长由行政长官提名,报中央人民政府任命。

十三条 香港特別行政区国家安全維持委員会は行政長官が首席を担当し、他に政務司司長・財政長官・律政司司長・保安局局長・警察署長・本法十六条により規定される警察署内の国家安全維持部門の責任者・入国管理局局長・税関長および行政長官室の主任をメンバーに含む。

香港特別行政区国家安全委員会は事務局を設置し、その事務長が指揮を取る。事務長は行政長官が候補者を出し、中央人民政府に報告し、中央人民政府が任命する。

合議体の構成員と、委員会の下に置かれる事務局についての規定。これだけでは不十分なので、組織に関する規定の整備が必要。

 

 第十四条 香港特别行政区维护国家安全委员会的职责为:

(一)分析研判香港特别行政区维护国家安全形势,规划有关工作,制定香港特别行政区维护国家安全政策;

(二)推进香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制建设;

(三)协调香港特别行政区维护国家安全的重点工作和重大行动。

香港特别行政区维护国家安全委员会的工作不受香港特别行政区任何其他机构、组织和个人的干涉,工作信息不予公开。香港特别行政区维护国家安全委员会作出的决定不受司法复核。

第十四条 香港特別行政区国家安全維持委員会の職責は:

香港特別行政区の国家安全維持体制を分析し研究し判断し、関連する業務を計画し、香港特別行政区の国家安全維持政策を制定する。

香港特別行政区の国家安全維持に関する法律制度と、執行機関の建設を推進する

香港特別行政区における国家安全維持に関する重要な業務と行動に関する政府の意見をまとめる。

香港特別行政区国家安全維持委員会の業務は、香港における他の機構・組織・または個人の干渉を受けず、業務の情報は非公開とし、香港特別行政区国家安全維持委員会が出した決定は司法審査を受けない。

1項で国家安全維持委員会の職責を各号列記。1号で国家安全維持に関する政策の立案等、2号で法制度及び執行機関の整備の推進、3号で香港の関係業務の統合・調整等を規定。2号については、法案の立案・提出権は主に政府にある(基本法62条5号。同法74条には、限定的だが議員立法についての規定もある。)ので、国家安全維持委員会が政府に対して、関係する法制度を整備するよう働きかけることが想定されるか。2項で、香港の他の機関等からの国家安全維持委員会の独立、情報の非公開、委員会の決定についての司法審査の排除等を規定。司法審査で委員会の決定が無効とされるかどうか以前の問題として、そもそも委員会にとっては、訴訟において自らの決定の適法性を裁判官に対して主張・立証しなければならないこと自体が耐えられないと想像される。委員会の決定以外の事項に関する事後的な司法審査を含め、立法機関、司法機関等がどの程度事前・事後に国家安全維持委員会を統制できるのかは不明だが、事実上、委員会は既存の香港法を含め、香港の法律等に一切拘束されないとも考えられる。 

 

第十五条 香港特别行政区维护国家安全委员会设立国家安全事务顾问,由中央人民政府指派,就香港特别行政区维护国家安全委员会履行职责相关事务提供意见。国家安全事务顾问列席香港特别行政区维护国家安全委员会会议。

第十五条 香港特別行政区国家安全維持委員会は国家安全事務顧問を設置し、この人物は中央人民政府から派遣するものとし、香港特別行政区国家安全維持委員会が職責を履行する際に関連する業務について意見を述べる。国家安全事務顧問は香港特別行政区国家安全委員会の会議に出席する。

国家安全維持委員会に中央人民政府の指名する顧問を置く旨を規定。委員会の設立と同日の7月3日に、中聯辦の駱惠寧主任が顧問に任命されている。顧問は委員会に意見の提供を行い、委員会に同席する。中央人民政府が顧問を通じて委員会の判断に大きな影響を与えることが予想されるが、本法第5章の定める国家安全維持公署に委員会に対する指揮監督権が与えられているため(53条1項)、機能が重複する感が否めない。

 

第十六条 香港特别行政区政府警务处设立维护国家安全的部门,配备执法力量。

警务处维护国家安全部门负责人由行政长官任命,行政长官任命前须书面征求本法第四十八条规定的机构的意见。警务处维护国家安全部门负责人在就职时应当宣誓拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法,效忠中华人民共和国香港特别行政区,遵守法律,保守秘密。

警务处维护国家安全部门可以从香港特别行政区以外聘请合格的专门人员和技术人员,协助执行维护国家安全相关任务。

第十六条 香港特別行政区の警務処の中に国家安全維持部門を設立し、この機関に法を執行する権限を割り当てる。

警務処内の国家安全部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官が任命する前には必ず書面で本法四十八条に定める機構の意見を書面で募集しなければならない。警務処の国家安全維持部門の責任者が就任する際には、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠と、法律を遵守すること、秘密を守ることを宣誓しなければならない。

警務処の国家安全維持部門は香港特別行政区以外からふさわしい専門性を有する人員や技術者を招聘することができ、国家安全維持に関する任務を援助することができる。

警務処に国家安全維持部門を新設する旨の規定。2項で同部門の責任者は行政長官により任命される旨、就任時に基本法擁護、香港への忠誠、法律遵守、秘密保持を宣誓する旨等を規定。宣誓の内容のうち前二者については6条3項と重複するため不要。後二者については、類似の規定は香港の他の法令にはなく、中国法の影響が見られる。あらゆる公務員のうち国家安全維持部門の責任者及び後述の律政司の関係部門の責任者にだけ法律遵守と秘密保持の宣誓が求められるというのも不自然なので、不要ではないか。3項で、同部門が本土から人員を招聘できる旨を規定。

 

第十七条 警务处维护国家安全部门的职责为:

(一)收集分析涉及国家安全的情报信息;

(二)部署、协调、推进维护国家安全的措施和行动;

(三)调查危害国家安全犯罪案件;

(四)进行反干预调查和开展国家安全审查;

(五)承办香港特别行政区维护国家安全委员会交办的维护国家安全工作;

(六)执行本法所需的其他职责。

第十七条 警務処国家安全維持部門の職責は:

⑴国家安全に関する情報やニュースを収集し分析する

⑵国家安全維持に関する措置と行動に関して意見をまとめ、組織を設立し、推し進める

⑶国家安全に危害を加える犯罪案件について調査する

⑷内政に干渉する外国勢力について調査を実施し、国家安全審査を展開する

香港特別行政区国家安全維持委員会が処理させる国家安全維持業務を引き受ける

⑹本法に必要なその他の職責を執行する

警務処の国家安全維持部門の職責を各号列記。1号から5号は、相互の関係をよく整理せずに思いつくままに並べている印象。6号は包括条項。

 

第十八条 香港特别行政区律政司设立专门的国家安全犯罪案件检控部门,负责危害国家安全犯罪案件的检控工作和其他相关法律事务。该部门检控官由律政司长征得香港特别行政区维护国家安全委员会同意后任命。

律政司国家安全犯罪案件检控部门负责人由行政长官任命,行政长官任命前须书面征求本法第四十八条规定的机构的意见。律政司国家安全犯罪案件检控部门负责人在就职时应当宣誓拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法,效忠中华人民共和国香港特别行政区,遵守法律,保守秘密。

第十八条 香港特別行政区の律政司は専門的に国家安全犯罪案件を検挙し起訴する部門を設立し、その部門は国家安全に危害を加える犯罪案件を検挙し起訴する業務と、それに関わるその他の法律事務に責任を負う。

裁判所内の国家安全部門に関わる犯罪案件を検挙し控訴する部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官が任命する前には必ず書面で本法四十八条に定める機構の意見を書面で募集しなければならない。裁判所内の国家安全部門に関わる犯罪案件を検挙し控訴する部門の責任者が就任する際には、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠と、法律を遵守すること、秘密を守ることを宣誓しなければならない。

1項は律政司に国家安全犯罪に関する部門を新設する旨の規定。2項は16条2項の「警务处维护国家安全部门负责人」を「律政司国家安全犯罪案件检控部门负责人」に変えただけなので、同項を準用するのが簡潔。前述のとおり、宣誓に関する規定は不要と考えられる。

 

第十九条 经行政长官批准,香港特别行政区政府财政司长应当从政府一般收入中拨出专门款项支付关于维护国家安全的开支并核准所涉及的人员编制,不受香港特别行政区现行有关法律规定的限制。财政司长须每年就该款项的控制和管理向立法会提交报告。

第十九条 行政長官に承認を受けて、香港特別行政区の財政司司長は政府の一般収入の中から国家安全維持に関する専門的な支出項目を設け、合わせてこれに関わる人員編成について審査の上で許可しなければならず、これは香港特別行政区の現行の法律規定の制限を受けないものとする。財政司司長は毎年この支出項目の制御と管理について立法会に報告を提出する。

国家安全維持に関する予算支出に関する規定。香港政府の予算編成権(基本法62条4号)や立法会の予算議決・審議権(基本法73条2号)の重大な侵害であり、基本法107条の規定する予算原則にも抵触するものだが、本法19条は現行法の規定による制限を明示的に排除している。「現行」であるかをいつの時点を基準にして判断するのかは不明だが、今後関係する法律の制定・改廃があったとしても、国家安全維持に関する予算はそれらに制約されないものと考えるべきか。