香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第六章

第六章 附则/第六章 附則

※日本法では本則中の雑則にでも置かれる規定と附則に置かれる規定が、混在している印象。

 

第六十二条 香港特别行政区本地法律规定与本法不一致的,适用本法规定。

第六十二条 香港特別行政区当地の法律規定と本法が一致しないときには、本法を適用する。

本法の規定と香港法の規定が異なる場合には本法の規定が適用され、香港法の規定の適用が排除される旨の規定。香港特別行政区立法権に対する重大な侵害。

 

第六十三条 办理本法规定的危害国家安全犯罪案件的有关执法、司法机关及其人员或者办理其他危害国家安全犯罪案件的香港特别行政区执法、司法机关及其人员,应当对办案过程中知悉的国家秘密、商业秘密和个人隐私予以保密。

  担任辩护人或者诉讼代理人的律师应当保守在执业活动中知悉的国家秘密、商业秘密和个人隐私。

  配合办案的有关机构、组织和个人应当对案件有关情况予以保密。

第六十三条 本法に規定する国家安全に危害を加える犯罪案件を処理する関連する司法・行政機関およびその人員またはその他の国家安全に危害を加える犯罪案件を処理する香港特別行政区の行政・司法機関およびその人員は、案件を処理する過程で知りえた国家秘密・商業秘密と個人情報の秘密を保たなければならない。

弁護人または訴訟代理人を担当した弁護士は業務を執り行う中で知りえた国家秘密・商業秘密と個人情報を保守しなければならない。

共に案件を処理する関連する機関・組織と個人は案件と関連する状況について秘密を保持しなければならない。

1項は、国家安全に危害を加える犯罪に関する職務を行う執行機関及び司法機関並びにこれらの人員に秘密保持義務を課した規定。職務に従事する人員のみならず機関にまで秘密保持義務を課している点が特徴的。公務員については既存の法令で秘密保持義務が課されていると思われるので、確認的な規定。2項は弁護人等の守秘義務に関する規定だが、1項と同様、確認的な規定と考えられる。3項はその他の関係機構、組織及び個人の秘密保持義務に関する規定。

 

第六十四条 香港特别行政区适用本法时,本法规定的“有期徒刑”“无期徒刑”“没收财产”和“罚金”分别指“监禁”“终身监禁”“充公犯罪所得”和“罚款”,“拘役”参照适用香港特别行政区相关法律规定的“监禁”“入劳役中心”“入教导所”,“管制”参照适用香港特别行政区相关法律规定的“社会服务令”“入感化院”,“吊销执照或者营业许可证”指香港特别行政区相关法律规定的“取消注册或者注册豁免,或者取消牌照”。

第六十四条 香港特別行政区が本法を適用するとき、本法に規定する「有期懲役」「無期懲役」「財産没収」と「罰金」はそれぞれ「監禁」「終身監禁」「犯罪所得の没収」と「罰金」を指し、「労役」は香港特別行政区の関連する法律規定の「監禁」「労役センター」「教導所に入所する」を参照し適用し、「管制」は香港特別行政区の関連する法律規定の「社会サービス令」「少年院」を参照し適用し、「許可証または営業許可証の取り消し」は香港特別行政区の関連する法律規定の「登録もしくは登録免除を取り消し、または営業許可証取り消し」を指す。

罰則規定を中心とした、香港で本法を適用する際の読替規定。これ以外にも、本来であれば香港で本法を適用する際に読替えが必要な規定は、枚挙にいとまがない。罰則については、特にその重要性が意識されたものか。

 

第六十五条 本法的解释权属于全国人民代表大会常务委员会。

第六十五条 本法の解釈権は全国人民代表大会常務委員会に属する。

本法の解釈権は全人代常務委員会に属する旨の規定。憲法67条4号と同旨の規定を確認的に置いただけであり、本来は不要。基本法158条1項についても同様だが、同条2項・3項の解釈権の授権との関係で、1項なしで2項から書き始めるとわかりにくく唐突な印象があるか。本法では全人代常務委員会の解釈権をあえて明記する意味はない。なお、全人代常務委員会の解釈権とは関係なく、香港の裁判所は裁判において国安法の解釈・適用を行うことができ、同様に香港の行政機関・立法機関、国家安全維持委員会等も、それぞれの職責に応じて同法の解釈を行うことは当然に可能。

 

第六十六条 本法自公布之日起施行。

第六十六条 本法は公布の日から施行する。

本法は公布日(6月30日)から施行する旨を定めた規定。法律施行に伴う組織の新設、関係規定の整備に時間を要することから、本来であれば各規定ごとに必要な準備期間を設けるべきであり、大いに問題のある規定。

香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第五章

第五章 中央人民政府驻香港特别行政区维护国家安全机构/第5章 中央人民政府駐香港特別行政区の国家安全維持機構

※組織を新設する旨の規定も公布日施行となっているが、おそらく立法のミス。6月30日の法律施行から7月8日の国家安全維持公署設立までの間は、法律の定める義務を中央人民政府が履行できない状態が続いたことになる。中央人民政府は公布よりも前に法案の内容を知っていたはずなので、早めに準備して法律施行と同時に組織を発足させれば良かったのだが、それが難しいなら本章だけでも公布から施行までの間に準備期間を設けるべき。

 

第四十八条 中央人民政府在香港特别行政区设立维护国家安全公署。中央人民政府驻香港特别行政区维护国家安全公署依法履行维护国家安全职责,行使相关权力。

  驻香港特别行政区维护国家安全公署人员由中央人民政府维护国家安全的有关机关联合派出。

 

第四十八条 中央人民政府は香港特別行政区に国家安全維持公署を設立する。中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持公署は法律に依拠して国家安全維持の職責を履行し、関連する権力を行使する。

香港特別行政区国家安全維持公署の人員は、中央人民政府の国家安全維持に関連する機関から連合して派遣する。

1項で中央人民政府が国家安全維持公署を設置する旨を規定。「依法履行职责」という語が本項と50条1項で2回も出てくるが、当然のことであり明記する意義に乏しい。むしろ国家安全維持公署が行った行為は全て適法であることを後から説明するために使われる規定か。2項で公署の人員について規定。

 

第四十九条 驻香港特别行政区维护国家安全公署的职责为:

  (一)分析研判香港特别行政区维护国家安全形势,就维护国家安全重大战略和重要政策提出意见和建议;

  (二)监督、指导、协调、支持香港特别行政区履行维护国家安全的职责;

  (三)收集分析国家安全情报信息;

  (四)依法办理危害国家安全犯罪案件。

第四十九条 駐香港特別行政区国家安全維持公署の職責は:

(一) 香港特別行政区の国家安全維持情勢について分析し研究し判断し、国家安全維持の重大な戦略と重要政策について意見や提案を提出する

(二) 香港特別行政区が国家安全維持の職責を履行するのを監督・指導・協調・支持する

(三) 国家安全の情報やニュースを収集し分析する

(四) 国家安全に危害を加える犯罪案件について法律に基づいて処理する

国家安全維持公署の職責を列挙。1号で国家安全維持に係る重大な戦略等について意見を出す旨が規定されているが、誰に対して出すのか明記されていない。2号は香港特別行政区に対する監督、指導等に関する規定であることから、1号は中央人民政府に対する政策提言を規定したものか。

 

第五十条 驻香港特别行政区维护国家安全公署应当严格依法履行职责,依法接受监督,不得侵害任何个人和组织的合法权益。

  驻香港特别行政区维护国家安全公署人员除须遵守全国性法律外,还应当遵守香港特别行政区法律。

  驻香港特别行政区维护国家安全公署人员依法接受国家监察机关的监督。

第五十条 駐香港特別行政区の国家安全維持公署は厳格に法律に基づいて職責を履行しなければならず、法律に基づいて監督を受け、いかなる人や組織の合法的な権益も侵害してはならない。

香港特別行政区国家安全維持公署の人員は全国性の法律を遵守しなければならないだけでなく、香港特別行政区の法律も遵守しなければならない。

香港特別行政区国家安全維持公署の人員は法律に基づいて国家監察機関の監督を受ける。

国家安全維持公署が法律を遵守する旨及び監察機関の監督に服する旨を明記した、当たり前の規定。なお、香港の法律については、62条で本法と抵触する規定については適用が排除されることに留意が必要。3項の国家監察機関については、憲法第3章第7節を参照。

 

第五十一条 驻香港特别行政区维护国家安全公署的经费由中央财政保障。

第五十一条 駐香港特別行政区国家安全維持公署の経費は中央の財政によって保障される。

国家安全維持公署の財源について規定。

 

第五十二条 驻香港特别行政区维护国家安全公署应当加强与中央人民政府驻香港特别行政区联络办公室、外交部驻香港特别行政区特派员公署、中国人民解放军驻香港部队的工作联系和工作协同。

第五十二条 駐香港特別行政区国家安全維持公署は中央人民政府駐香港特別行政区連絡事務室・外交部駐香港特別行政区特派員公署・中国人民解放軍駐香港部隊と連絡しての業務と協同しての業務を強めなければならない。

国家安全維持公署が他の機関と連携を強化する旨の訓示規定。

 

第五十三条 驻香港特别行政区维护国家安全公署应当与香港特别行政区维护国家安全委员会建立协调机制,监督、指导香港特别行政区维护国家安全工作。

  驻香港特别行政区维护国家安全公署的工作部门应当与香港特别行政区维护国家安全的有关机关建立协作机制,加强信息共享和行动配合。

第五十三条 駐香港特別行政区国家安全維持公署は香港特別行政区国家安全維持委員会と協調のしくみを打ち立てなければならず、香港特別行政区の国家安全維持業務を監督・指導する。

香港特別行政区国家安全維持公署の業務部門は香港特別行政区の国家安全維持に関わる機関と協力のしくみを打ち立てなければならず、情報の共有と行動の協力を強化する。

1項で、国家安全維持公署が香港の国家安全維持委員会と連携し、香港特別行政区の国家安全に関する業務を監督、指導する旨の規定。49条2号と重複している感が否めない。2項は、国家安全維持公署の各部署が、香港の関係する機関と連携する旨の訓示規定。

 

第五十四条 驻香港特别行政区维护国家安全公署、外交部驻香港特别行政区特派员公署会同香港特别行政区政府采取必要措施,加强对外国和国际组织驻香港特别行政区机构、在香港特别行政区的外国和境外非政府组织和新闻机构的管理和服务。

第五十四条 駐香港特別行政区国家安全維持公署・外交部駐香港特別行政区特派員公署は香港特別行政区政府と連合して必要な措置を取り、外国または国際組織の駐香港特別行政区の機関・在香港特別行政区の外国および境外の非政府組織・報道機関の管理と服務を強化する。

国家安全維持公署、外交部及び香港政府が、香港に駐在する外国及び国際機関の機構並びに外国及び境外(台湾)のNGO及びメディアに対して管理を強化する旨を規定。

 

第五十五条 有以下情形之一的,经香港特别行政区政府或者驻香港特别行政区维护国家安全公署提出,并报中央人民政府批准,由驻香港特别行政区维护国家安全公署对本法规定的危害国家安全犯罪案件行使管辖权:

  (一)案件涉及外国或者境外势力介入的复杂情况,香港特别行政区管辖确有困难的;

  (二)出现香港特别行政区政府无法有效执行本法的严重情况的;

  (三)出现国家安全面临重大现实威胁的情况的。

第五十五条 以下に定める状況のうちのひとつがあった時は、香港特別行政区または駐香港特別行政区国家安全維持公署を経て提出し、中央人民政府が批准し、香港特別行政区国家安全維持公署が本法に規定する国家安全に危害を加える犯罪案件について管轄権を行使する:

(一) 案件が外国または境外の勢力が介入する複雑な状況で、香港特別行政区の管轄に確実に困難がある時;

(二) 香港特別行政区政府が有効に本法を執行することのできない厳重な状況が出現した時

(三) 国家安全が重大な現実的な脅威にさらされる状況が出現した時

各号の要件を満たした場合に、国家安全維持公署が犯罪に対する管轄権を行使する旨の規定。香港特別行政区の管轄権(40条)の例外規定。1号及び2号は香港が管轄権を行使することが困難又は不能な場合であり、香港が無能であればあるほど国家安全維持公署が管轄権を拡大できるかのような規定。3号は香港の能力とは関係なく、国家安全に重大な危険が現に生じている場合。

 

第五十六条 根据本法第五十五条规定管辖有关危害国家安全犯罪案件时,由驻香港特别行政区维护国家安全公署负责立案侦查,最高人民检察院指定有关检察机关行使检察权,最高人民法院指定有关法院行使审判权。

第五十六条 本法第五十五条の規定に基づいて国家安全に危害を加える犯罪案件を管轄するとき、駐香港特別行政区国家安全維持公署が立案・調査の責任を負い、最高人民検察院が関連のある検察機関を指定して検察権を行使し、最高人民法院が関連のある法院を指定して裁判権を行使する。

国家安全維持公署が犯罪に対する管轄権を行使する場合の捜査機関、検察機関及び裁判機関に関する規定。

 

第五十七条 根据本法第五十五条规定管辖案件的立案侦查、审查起诉、审判和刑罚的执行等诉讼程序事宜,适用《中华人民共和国刑事诉讼法》等相关法律的规定。

  根据本法第五十五条规定管辖案件时,本法第五十六条规定的执法、司法机关依法行使相关权力,其为决定采取强制措施、侦查措施和司法裁判而签发的法律文书在香港特别行政区具有法律效力。对于驻香港特别行政区维护国家安全公署依法采取的措施,有关机构、组织和个人必须遵从。

第五十七条 本法第五十五条の規定に基づいて管轄する案件の立案調査・審査起訴・裁判・刑罰執行などの訴訟手続きは、『中華人民共和国刑事訴訟法』その他の関連する法律規定を適用する。

本法第五十五条の規定に基づいて案件を管轄する時は、本法第五十六条に規定する行政・司法機関が法律に基づいて関連する権力を行使し、その強制措置・調査措置・司法裁判を取ることを決定するために発行された文書が、香港特別行政区において法的効力を持つ。香港特別行政区国家安全維持公署が取った措置に対して、関連する機関・組織・個人はこれを遵守しなければならない。

1項は、国家安全維持公署が犯罪に対する管轄権を行使する場合の刑事手続については中国刑事訴訟法その他の関係規定を適用する旨の規定。本法の刑事手続に関する規定も当然適用されるはずだが、自明なので明記していないのか、あるいは「その他の関係規定」に含む趣旨か。41条1項が、香港が管轄権を行使する場合の刑事手続について本法と香港法を適用すると規定している点と対比。2項前段で、前条の機関が発した法律文書が香港で法律上の効力を有する旨を規定。「法律文書」に具体的にどのような文書が含まれるのかは不明だが、法律の規定に基づいて作成された文書が法律上の効力を有するのは当然だと思われる。後段で、関係する機関、組織及び個人は、国家安全維持公署の措置に従わなければならない旨を規定。

 

第五十八条 根据本法第五十五条规定管辖案件时,犯罪嫌疑人自被驻香港特别行政区维护国家安全公署第一次讯问或者采取强制措施之日起,有权委托律师作为辩护人。辩护律师可以依法为犯罪嫌疑人、被告人提供法律帮助。

  犯罪嫌疑人、被告人被合法拘捕后,享有尽早接受司法机关公正审判的权利。

第五十八条 本法五十五条規定に基づいて案件を管轄するとき、容疑者は駐香港特別行政区国家安全維持公署で第一回の取り調べを受ける日または強制措置が取られた日から、弁護士に弁護人を頼む権利を有する。弁護士は法律に基づいて容疑者・被告人に対して法律的な助けを提供できる。

容疑者・被告人は法律に基づいて逮捕された後、なるべく早く司法機関の公正な裁判を受ける権利を有する。

1項で、容疑者の弁護人選任権について規定。中国刑事訴訟法34条と同旨。同項の規定する場合以外に、弁護人選任権が保障されるのかは不明。2項で迅速な裁判を受ける権利を保障。日本国憲法37条1項も同旨だが、本法58条2項では被告人に加え被疑者も対象になっている。(被疑者は必ず起訴されることを見込んだ規定??) 

 

第五十九条 根据本法第五十五条规定管辖案件时,任何人如果知道本法规定的危害国家安全犯罪案件情况,都有如实作证的义务。

第五十九条 本法五十五条の規定に基づいて案件を管轄するとき、いかなる人ももしも本法に規定する国家安全に危害を加える犯罪案件があると知った時は、取り調べの際に事実を述べる義務を負う。

国家安全維持公署が犯罪に対する管轄権を行使する場合に、国家安全を害する犯罪について知っている者に真実を述べる義務を課した規定。被疑者・被告人の黙秘権や証人の証言拒絶権を否定しており、さらに国家安全維持公署が管轄を有する事件以外の犯罪についても、真実陳述義務の対象となると考えられる。なお、義務違反に対する制裁は本法には規定されていないので、中国本土・香港の刑事手続法が適用されることになるか。

 

第六十条 驻香港特别行政区维护国家安全公署及其人员依据本法执行职务的行为,不受香港特别行政区管辖。

  持有驻香港特别行政区维护国家安全公署制发的证件或者证明文件的人员和车辆等在执行职务时不受香港特别行政区执法人员检查、搜查和扣押。

驻香港特别行政区维护国家安全公署及其人员享有香港特别行政区法律规定的其他权利和豁免。

第六十条 駐香港特別行政区国家安全維持公署およびその人員が本法に基づいて職務を執行する行為は、香港特別行政区の管轄を受けない。

香港特別行政区国家安全維持公署が制定発布した証明書または証明文書を所持している人員または車両が職務を執行しているときには香港特別行政区行政人員の検査・捜査と差し押さえを受けない。

香港特別行政区国家安全維持公署およびその人員は香港特別行政区の法律が規定するその他の権利と免除を享受する。

1項は、国家安全維持公署及びその人員の職務行為について、香港特別行政区は管轄を有しない旨の規定。趣旨が不明瞭な規定だが、職務遂行に伴う不法行為、犯罪行為等を念頭に置いたものか。48条1項、50条1項・2項で国家安全維持公署の法律遵守義務が明記されているが、国家安全維持公署に対して法律違反の責任を問うことは難しいと思われる。2項で職務の遂行に当たる人員、車両等が香港の執行職員による検査、捜査及び差押えを受けない旨を規定。3項で、国家安全維持公署及びその人員が、香港法の規定するその他の権利及び免除を受ける旨を規定。「権利」という語が用いられているが、外交上の特権に近いものか。香港法のどのような規定が想定されているのか不明だが、本法施行に合わせて関係規定の整備が必要になると考えられる。

 

第六十一条 驻香港特别行政区维护国家安全公署依据本法规定履行职责时,香港特别行政区政府有关部门须提供必要的便利和配合,对妨碍有关执行职务的行为依法予以制止并追究责任。

第六十一条 駐香港特別行政区国家安全維持公署が本法の規定に基づいて職責を履行するとき、香港特別行政区政府の関連する部門は必要な便宜と協力を提供しなければならず、職務の執行に関する行為に対して妨害があったときには法律に基づいて制止し責任追及する。

国家安全維持公署の職務遂行に当たり、香港政府が便宜を図り、職務遂行の障害となるものを排除する旨の責務規定。

香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第四章

第四章 案件管辖、法律适用和程序/第四条 案件の管轄・法律の適用と手続

第四十条 香港特别行政区对本法规定的犯罪案件行使管辖权,但本法第五十五条规定的情形除外。

第四十条 香港特別行政区は本法に規定する犯罪案件に対して管轄権を行使するが、五十五条の規定に定める状況の場合は除外する。

刑事裁判管轄に関する規定。

 

第四十一条 香港特别行政区管辖危害国家安全犯罪案件的立案侦查、检控、审判和刑罚的执行等诉讼程序事宜,适用本法和香港特别行政区本地法律。

  未经律政司长书面同意,任何人不得就危害国家安全犯罪案件提出检控。但该规定不影响就有关犯罪依法逮捕犯罪嫌疑人并将其羁押,也不影响该等犯罪嫌疑人申请保释。

  香港特别行政区管辖的危害国家安全犯罪案件的审判循公诉程序进行。

  审判应当公开进行。因为涉及国家秘密、公共秩序等情形不宜公开审理的,禁止新闻界和公众旁听全部或者一部分审理程序,但判决结果应当一律公开宣布。

第四十一条 香港特別行政区は国家安全に危害を加える犯罪案件の立案調査・検察・裁判と刑罰の執行などの訴訟手続事務を管轄し、本法と香港特別行政区当地の法律を適用する。

律政司長の書面による同意なくしては、いかなる人も国家安全に危害を加える犯罪案件で検挙し送検されることはない。ただしこの規定は犯罪に関わりのある容疑者を法律に基づき逮捕したり拘束したりすることを妨げるものではなく、容疑者が保釈を申請することを妨げるものでもない。

香港特別行政区が管轄する国家安全に危害を加える犯罪案件の裁判は、公訴手続に従って進行する。

裁判は公開で行わなければならない。国家秘密・公共秩序などの状況におよぶ公開しない方がいい審理の時には、報道関係者や聴衆が全部または一部の審理を傍聴することを禁止することができるが、判決結果は一律に公開・公表しなければならない。

1項は、香港が管轄権を行使する場合の刑事手続について、本法と香港法を適用する旨を規定。57条1項は、国家安全維持公署が管轄権を行使する場合には中国刑事訴訟法等を適用すると規定し、本法と香港法を適用すると明記していない点と対比。2項で起訴には律政司長の書面による同意が必要である旨及びこの規定は逮捕、勾留、保釈等に影響を及ぼさない旨を規定。3項で審理・判決は公訴の手続に沿って行われる旨を規定しているが、1項との関係は不明。確認的な規定か。4項は審理の公開の原則と、その例外として非公開で行う場合を規定。

 

第四十二条 香港特别行政区执法、司法机关在适用香港特别行政区现行法律有关羁押、审理期限等方面的规定时,应当确保危害国家安全犯罪案件公正、及时办理,有效防范、制止和惩治危害国家安全犯罪。

  对犯罪嫌疑人、被告人,除非法官有充足理由相信其不会继续实施危害国家安全行为的,不得准予保释。

第四十二条 香港特別行政区の行政・司法機関が香港特別行政区の現行法の中で拘禁・審理期限などの方面に関する規定を適用するときは、国家安全に危害を加える犯罪案件の公正・適時的な処理を確保しなければならず、国家安全に危害を加える犯罪を有効に防止・制止そして処罰しなければならない。

犯罪の容疑者・被告人は、裁判官がこの容疑者・被告人は国家安全に危害を加える行為の実施を継続することはないと信じるに足る理由がある場合を除いて、保釈を許可してはならない。

1項は香港の執行機関・司法機関に対する訓示規定。2項は、容疑者及び被告人が「国家安全を害する行為の実施を継続しないと信じるに足りる理由がある」場合を除き、保釈を認めない旨を規定。あたかも容疑者・被告人が国家安全を害する行為を既に実施しており、しかも今後も継続するかのような書きぶり。(※無罪推定の原則について、本法5条2項及び基本法87条2項を参照。)

 

第四十三条 香港特别行政区政府警务处维护国家安全部门办理危害国家安全犯罪案件时,可以采取香港特别行政区现行法律准予警方等执法部门在调查严重犯罪案件时采取的各种措施,并可以采取以下措施:

  (一)搜查可能存有犯罪证据的处所、车辆、船只、航空器以及其他有关地方和电子设备;

  (二)要求涉嫌实施危害国家安全犯罪行为的人员交出旅行证件或者限制其离境;

  (三)对用于或者意图用于犯罪的财产、因犯罪所得的收益等与犯罪相关的财产,予以冻结,申请限制令、押记令、没收令以及充公;

  (四)要求信息发布人或者有关服务商移除信息或者提供协助;

  (五)要求外国及境外政治性组织,外国及境外当局或者政治性组织的代理人提供资料;

  (六)经行政长官批准,对有合理理由怀疑涉及实施危害国家安全犯罪的人员进行截取通讯和秘密监察;

  (七)对有合理理由怀疑拥有与侦查有关的资料或者管有有关物料的人员,要求其回答问题和提交资料或者物料。

  香港特别行政区维护国家安全委员会对警务处维护国家安全部门等执法机构采取本条第一款规定措施负有监督责任。

  授权香港特别行政区行政长官会同香港特别行政区维护国家安全委员会为采取本条第一款规定措施制定相关实施细则。

第四十三条 香港特別行政区政府の警務処の国家安全維持部門が国家安全に危害を加える犯罪案件を取り扱うときは、香港特別行政区の現行の法律の中で警察などの行政部門が重大な犯罪案件を調査する際に取ることを許可されている様々な措置を講ずることができ、また以下のような措置も講ずることができる:

⑴犯罪の証拠を有する可能性のある場所・車両・船舶・航空機またはその他の関連する場所と電子設備を捜査する

⑵国家安全に危害を加える犯罪行為を行うおそれのある人の旅行証の提出を要求したり出国を制限したりする

⑶犯罪に用いたまたは用いようとした財産・犯罪から得られた収益など犯罪と関係のある財産を凍結したり、制限・差し押さえ・没収・没収して国有財産にすることを命じたりする

⑷ニュースを発信している人またはプロバイダーに、情報の削除または協力の提供を要求する

⑸外国または境外の政治組織に、外国または境外当局または政治組織の代理人に資料の提供を要求する

⑹行政長官の許可を得て、国家安全に危害を加える犯罪を実施するおそれがあると合理的な理由で認められた人に対して、通信の一部を盗聴したり秘密観察をしたりする

⑺合理的な理由で、捜査に関係のある資料を所有しているまたは関連のある物資を管理していると疑われる人員に対して、質問に答えること、または資料または物資の提出を要求する

香港特別行政区の国家安全維持委員会は警務処国家安全維持部門などの行政機関が本条第一項に規定する措置をとる際に監督責任を負う。

香港特別行政区行政長官香港特別行政区国家安全維持委員会が本条第一項に規定する措置をとるために関連のある実施規定を制定する権限を授与する。

強制捜査に係る特則。1項に「在调查严重犯罪案件时采取的各种措施」を採ることができると明記されており、香港法に関係する規定があるようだが、この書き振りで当該規定を特定できているのかは疑問。「~各种措施」に加えて1項各号の措置も実施可能だが、両者が重複している感がある。なお、5号で外国の政治当局等に対して資料の提供を「要求」できる旨の規定があるが、2号、4号、7号でも「要求」という語が用いられていることと比べると、外国の政治当局等に対しても同様の表現を使うのは不自然。2項で、国家安全維持委員会による警務処の所管部門に対する監督責任を規定。3項で、1項の措置の細目に係る委任を規定。これを受けて「中華人民共和國香港特別行政區維護國家安全法第四十三條實施細則」が制定されており、無令状での捜索等が規定されている(7月6日公布、7月7日施行だが、法律公布から僅か6日で作ったとは思えない膨大な分量)。香港政府は、「實施細則」について「具有法律效力」としており、独自の罰則も制定されているが、立法手続の潜脱であり立法権の侵害ではないか。  

 

第四十四条 香港特别行政区行政长官应当从裁判官、区域法院法官、高等法院原讼法庭法官、上诉法庭法官以及终审法院法官中指定若干名法官,也可从暂委或者特委法官中指定若干名法官,负责处理危害国家安全犯罪案件。行政长官在指定法官前可征询香港特别行政区维护国家安全委员会和终审法院首席法官的意见。上述指定法官任期一年。

  凡有危害国家安全言行的,不得被指定为审理危害国家安全犯罪案件的法官。在获任指定法官期间,如有危害国家安全言行的,终止其指定法官资格。

  在裁判法院、区域法院、高等法院和终审法院就危害国家安全犯罪案件提起的刑事检控程序应当分别由各该法院的指定法官处理。

第四十四条 香港特別行政区の行政長官は、マジストレート裁判所の裁判官・地区法院の裁判官・高等法院の第一審裁判所と控訴院の裁判官および終審法院の裁判官の中から若干名の裁判官を指名しなければならず、また暫委あるいは特委の中から若干名の裁判官を指名することもでき、国家安全に危害を加える犯罪案件の処理の責任を負わせる。行政長官は裁判官を指定する前に、香港特別行政区国家安全維持委員会と終審法院の首席裁判官の意見を求めることができる。上に述べた指定裁判官の任期は1年とする。

 国家安全に危害を加える言動をしたすべての人は、国家安全に危害を加える犯罪案件の審理をする裁判官に指名されることができない。指定裁判官の任期中に国家安全に危害を加える言動があった場合には、指定裁判官の資格を終了する。

 マジストレート裁判所・地区法院・高等法院と終審法院で行われる国家安全に危害を加える犯罪案件に関わる刑事検察手続きは、各裁判所の指定裁判官に分別して処理しなければならない。

1項で、行政長官が、裁判官の中から国家安全犯罪に関する審理を担当する裁判官を指定しなければならない旨を規定。2項で、国家安全を害する言動を行った者は指定できない旨を規定。国家安全を害する言動を行い、かつ、それが「行為不檢」として裁判官の解任事由に当たるならば、そもそも裁判官を解任されるはずなので(基本法89条)、それには至らない程度の言動が想定されるか。指定された裁判官の解任事由は、本項の規定以外にはない。3項で指定された裁判官が刑事手続を処理する旨を規定。

 

第四十五条 除本法另有规定外,裁判法院、区域法院、高等法院和终审法院应当按照香港特别行政区的其他法律处理就危害国家安全犯罪案件提起的刑事检控程序。

第四十五条 本法による規定のほかに、マジストレート裁判所・地区法院・高等法院と終審法院は香港特別行政区のその他の法律にしたがって国家安全に危害を加える犯罪案件の刑事検察手続を行わなければならない。

特段の規定がない限り、香港の法律に基づき刑事手続を行う旨を規定。41条1項と同旨であり、独自の意義に乏しい。

 

第四十六条 对高等法院原讼法庭进行的就危害国家安全犯罪案件提起的刑事检控程序,律政司长可基于保护国家秘密、案件具有涉外因素或者保障陪审员及其家人的人身安全等理由,发出证书指示相关诉讼毋须在有陪审团的情况下进行审理。凡律政司长发出上述证书,高等法院原讼法庭应当在没有陪审团的情况下进行审理,并由三名法官组成审判庭。

  凡律政司长发出前款规定的证书,适用于相关诉讼的香港特别行政区任何法律条文关于“陪审团”或者“陪审团的裁决”,均应当理解为指法官或者法官作为事实裁断者的职能。

第四十六条 高等法院の第一審裁判所が行う国家安全に危害を加える犯罪案件の刑事検察手続きに対して、律政司長は国家秘密の保持に関わる・外交に関連する・または陪審員およびその家族の身の安全の保障などの理由に基づき、証明書を発出して関連する訴訟において陪審員がいる状況で審理を進行する必要はないと指示することができる。律政司長が上述の証明書を発出したすべての時に、高等法院の第一審裁判所は陪審員のいない状況で審理を進行しなければならず、三名の裁判官で法廷を組織する。

律政司長が前項に規定する証明書を発出した時には、関連する訴訟に適用する香港特別行政区のすべての法律の条文の中で「陪審員」または「陪審員の裁判」に関わる条文について、(該当の語を)「裁判官」または「裁判官の事実認定の職務」と置き換えることにする。

1項は、一定の要件を満たした場合に、律政司長が、陪審を排除して裁判官のみで審理を行うよう指示できる規定。2項は関係規定の読替え。

 

第四十七条 香港特别行政区法院在审理案件中遇有涉及有关行为是否涉及国家安全或者有关证据材料是否涉及国家秘密的认定问题,应取得行政长官就该等问题发出的证明书,上述证明书对法院有约束力。

第四十七条 香港特別行政区の裁判所が案件を審理する中である行為が国家安全に影響を与えるかどうか・またはある証拠が国家秘密に関わる問題かどうかに関する事実の認定問題がある時には、行政長官が該当の問題に対して発出した証明書を取得しなければならず、上述の証明書は裁判所に対して拘束力を持つ。

国家安全又は国家機密に関わる事実認定について、裁判所は行政長官が提出する証明書に拘束される旨を規定。いわゆる法定証拠主義(↔自由心証主義)を採用したもの。基本法19条3項にも同様の規定があり、重複する部分もあると思われるが、両者の適用関係については不明。なお、日本刑事訴訟法でも一定の場合に自由心証主義を制限しており、証拠能力や証明力を排除した規定はあるが、法定証拠主義を採用した規定は存在しない。

香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第三章

第三章 罪行和处罚/第3章 犯罪行為および処罰

第一节 分裂国家罪/第一節 分裂国家罪

※中国刑法についての知識がないと、理解が困難な規定。日本刑法とは異なる概念が用いられており、用語も難解。

※中国刑法第2編第1章(102条~113条)にも「危害国家安全罪」があり、総則で国外犯処罰も明記されているが、本法3章との関係が十分に整理されているかはやや疑問。

 

第二十条 任何人组织、策划、实施或者参与实施以下旨在分裂国家、破坏国家统一行为之一的,不论是否使用武力或者以武力相威胁,即属犯罪:

  (一)将香港特别行政区或者中华人民共和国其他任何部分从中华人民共和国分离出去;

  (二)非法改变香港特别行政区或者中华人民共和国其他任何部分的法律地位;

  (三)将香港特别行政区或者中华人民共和国其他任何部分转归外国统治。

  犯前款罪,对首要分子或者罪行重大的,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑;对积极参加的,处三年以上十年以下有期徒刑;对其他参加的,处三年以下有期徒刑、拘役或者管制。

第二十条 いかなる人も、以下に定める国家分裂・国家統一の破壊に当たる行為の一つでも組織したり画策したり実施したり参加したりした場合は、武力の使用または武力を使った威嚇の有無に関わらず、犯罪とする。

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地域を中華人民共和国から切り離そうとすること

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地域の法的地位を違法に改変しようとすること

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地位を外国に帰属させようとすること

前項の犯罪について、首謀者もしくは罪が重大だと認められる場合には、無期懲役もしくは十年以上の有期刑に、積極的に参加した人は三年以上十年以下の有期刑に、その他の参加者は三年以下の有期刑もしくは労役または保護観察とする。

1項各号に掲げる国家分裂行為、国家統一の破壊行為について、組織、計画、実施又は参加した場合に、武力を使用したか武力による威嚇かを問わず犯罪とするもの。2項で行為者の役割の類型に応じて法定刑の軽重を定めている。

 

第二十一条 任何人煽动、协助、教唆、以金钱或者其他财物资助他人实施本法第二十条规定的犯罪的,即属犯罪。情节严重的,处五年以上十年以下有期徒刑;情节较轻的,处五年以下有期徒刑、拘役或者管制。

第二十一条 いかなる人も他人が本法二十条に定める犯罪行為を行うために扇動・協助・教唆・金銭やその他の財産をもって支援した場合には、犯罪行為とする。事の内容が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑に、事の内容が軽微な場合には五年以下の有期刑、労役または保護観察とする。

前条の犯罪への煽動、幇助、教唆等を処罰する規定。まず犯罪類型を規定した上で、その中で「犯情が重大なもの」と「犯情が比較的軽微なもの」でそれぞれ法定刑を分けるのは、中国の刑罰規定にはよく見られるが、香港刑法には見られない。以下も同様。

 

第二节 颠覆国家政权罪/第二節 転覆国家政権罪

第二十二条 任何人组织、策划、实施或者参与实施以下以武力、威胁使用武力或者其他非法手段旨在颠覆国家政权行为之一的,即属犯罪:

  (一)推翻、破坏中华人民共和国宪法所确立的中华人民共和国根本制度;

  (二)推翻中华人民共和国中央政权机关或者香港特别行政区政权机关;

  (三)严重干扰、阻挠、破坏中华人民共和国中央政权机关或者香港特别行政区政权机关依法履行职能;

  (四)攻击、破坏香港特别行政区政权机关履职场所及其设施,致使其无法正常履行职能。

  犯前款罪,对首要分子或者罪行重大的,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑;对积极参加的,处三年以上十年以下有期徒刑;对其他参加的,处三年以下有期徒刑、拘役或者管制。

第二十二条 いかなる人も、武力・武力を用いた威嚇行為・またはその他の違法な手段をもって、以下に定める国家政権転覆の行為の一つでも組織したり画策したり実施したり参加したりした場合には、犯罪とする。

中華人民共和国憲法が確立した中華人民共和国の重要な制度を転覆したり破壊したりすること

中華人民共和国の中央政権機関もしくは香港特別行政区の政権機関を転覆すること

中華人民共和国の中央政権機関もしくは香港特別行政区の政権機関が法に基づいて履行しようとする職務を深刻に邪魔したり阻んだり破壊したりすること

香港特別行政区の政権機関の職務を履行するための場所および設備を、正常な職務の履行が不可能なほどに攻撃または破壊すること

前項の犯罪について、首謀者もしくは罪が重大だと認められる場合には、無期懲役もしくは十年以上の有期刑に、積極的に参加した人は三年以上十年以下の有期刑に、その他の参加者は三年以下の有期刑もしくは労役または保護観察とする。

1項各号に掲げる国家政権転覆行為について、組織、計画、実施又は参加した場合に犯罪とするもの。4号は、例えば昨年7月1日の立法会占拠を念頭に置いたものか。2項で行為者の役割の類型に応じて法定刑の軽重を定めている。

 

第二十三条 任何人煽动、协助、教唆、以金钱或者其他财物资助他人实施本法第二十二条规定的犯罪的,即属犯罪。情节严重的,处五年以上十年以下有期徒刑;情节较轻的,处五年以下有期徒刑、拘役或者管制。

第二十三条 いかなる人も他人が本法二十二条に定める犯罪行為を行うために扇動・協助・教唆・金銭やその他の財産をもって支援した場合には、犯罪行為とする。事の内容が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑に、事の内容が軽微な場合には五年以下の有期刑、労役または保護観察とする。

前条の犯罪への煽動、幇助、教唆等を処罰する規定。

 

第三节 恐怖活动罪/第三節 テロ活動罪

第二十四条 为胁迫中央人民政府、香港特别行政区政府或者国际组织或者威吓公众以图实现政治主张,组织、策划、实施、参与实施或者威胁实施以下造成或者意图造成严重社会危害的恐怖活动之一的,即属犯罪:

  (一)针对人的严重暴力;

  (二)爆炸、纵火或者投放毒害性、放射性、传染病病原体等物质;

  (三)破坏交通工具、交通设施、电力设备、燃气设备或者其他易燃易爆设备;

  (四)严重干扰、破坏水、电、燃气、交通、通讯、网络等公共服务和管理的电子控制系统;

  (五)以其他危险方法严重危害公众健康或者安全。

  犯前款罪,致人重伤、死亡或者使公私财产遭受重大损失的,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑;其他情形,处三年以上十年以下有期徒刑。

第二十四条 中央人民政府・香港特別行政区政府または国際組織を脅迫し、または公衆を威嚇し脅し、もって政治的主張を実現しようと計画して、以下に定める社会に重大な危害を加えるテロ活動をひとつでも引き起こすことまたはひき起こそうとすることを、組織したり画策したり実施したり参加したり実施すると脅迫した場合には、犯罪とする。

⑴人に的確に向けられた重大な暴力

⑵爆発したり放火したりまたは毒のある物質・放射性の物質・伝染病の病原体などを放ったりすること

⑶交通手段・交通設備・電力設備・ガスまたはその他の燃えやすく爆発しやすい設備を破壊すること

⑷水・電気・ガス・交通・通信・インターネットなどの公共サービスおよびそれらを管理するサーバーなどを深刻に阻害したり破壊したりすること

⑸その他の危険な方法をもって公衆の健康または安全に重大な危害を加えること

前項の犯罪行為で、他人に重傷を負わせる・死亡させた場合、または公的・私的財産に重大な損失を与えた場合には無期懲役または十年以上の有期刑とし、他の状況については、三年以上十年以下の有期刑とする。

一定の目的の下で、1項各号に列記された態様でテロ活動に組織、計画、実施等した場合に犯罪とするもの。中央人民政府及び香港政府と並んで脅迫の対象となる「国際組織」に、何が含まれるのかは不明。2項は法定刑の規定。1項の行為により致死傷等の結果が生じた場合には刑を加重。

 

第二十五条 组织、领导恐怖活动组织的,即属犯罪,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑,并处没收财产;积极参加的,处三年以上十年以下有期徒刑,并处罚金;其他参加的,处三年以下有期徒刑、拘役或者管制,可以并处罚金。

  本法所指的恐怖活动组织,是指实施或者意图实施本法第二十四条规定的恐怖活动罪行或者参与或者协助实施本法第二十四条规定的恐怖活动罪行的组织。

第二十五条 テロ組織を組織したり率いたりすることは犯罪とし、無期懲役または十年以上の有期刑とし、財産は没収する。積極的に参加した者は三年以上十年以下の有期刑とし、罰金を科す。その他の参加者は三年以下の有期刑・労役・または保護観察とし、罰金を科すこともできる。

本法の指すテロ活動組織とは、本法二十四条に定めるテロ活動の罪の行為を実施もしくは実施しようと意図する、または本法二十四条に定めるテロ活動の罪の行為に参加し、または実施の協助をする組織を指す。

1項でテロ活動組織への首謀、参加等の態様に応じて法定刑の軽重を規定した上で、2項でテロ活動組織を定義。定義規定の置き場所についてはやや疑問。1項と2項をまとめるのが読みやすいか。

 

第二十六条 为恐怖活动组织、恐怖活动人员、恐怖活动实施提供培训、武器、信息、资金、物资、劳务、运输、技术或者场所等支持、协助、便利,或者制造、非法管有爆炸性、毒害性、放射性、传染病病原体等物质以及以其他形式准备实施恐怖活动的,即属犯罪。情节严重的,处五年以上十年以下有期徒刑,并处罚金或者没收财产;其他情形,处五年以下有期徒刑、拘役或者管制,并处罚金。

  有前款行为,同时构成其他犯罪的,依照处罚较重的规定定罪处罚。

第二十六条 テロ活動組織・テロ活動人員・テロ活動の実施ために、訓練・武器・情報・資金・物資・役務・運輸・技術・場所などを提供して便宜をはかった場合、または爆発性・毒性・放射性のある物質・伝染病の病原体を製造または違法に所持し、その他の方法をもってテロ活動の実施の準備した場合には、犯罪とする。状況が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑とし、罰金または財産の没収を科す。その他の状況については、五年以下の有期刑・労役または保護観察とし、罰金を科す。

前項に定める犯罪行為に加えて、同時に他の犯罪を構成する場合は、処罰の法定刑を比較して処刑する。

1項前段で、テロ活動組織、テロ活動人員等に対して訓練、武器、情報、資金等を提供する行為を犯罪とする。「テロ活動人員」については、なぜか定義規定なし。後段で「犯情が重大なもの」と「それ以外」でそれぞれ法定刑を分けている。2項は、1項の行為が同時に他の犯罪も構成する場合に、法定刑が重い方で処罰する旨の規定。日本でいう観念的競合(日本刑法54条1項前段)のことか。仮にこの規定がなかった場合の罰則の適用関係は不明だが、なくても同じ結論になるのであれば、2項は確認的な規定。

 

第二十七条 宣扬恐怖主义、煽动实施恐怖活动的,即属犯罪。情节严重的,处五年以上十年以下有期徒刑,并处罚金或者没收财产;其他情形,处五年以下有期徒刑、拘役或者管制,并处罚金。

第二十七条 テロ主義を宣伝すること、またテロ活動の実施を煽動することは犯罪とする。状況が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑とし、罰金または財産の没収を科す。その他の状況については、五年以下の有期刑・労役または保護観察とし、罰金を科す。

テロリズムの宣揚及びテロ活動の煽動を犯罪とするもの。街頭での活動、ネットの書き込み等も、態様によっては(あるいは当局の気分次第で)宣揚又は煽動に当たり得るのかは不明。「犯情が重大なもの」と「それ以外」でそれぞれ法定刑を分けている。

 

第二十八条 本节规定不影响依据香港特别行政区法律对其他形式的恐怖活动犯罪追究刑事责任并采取冻结财产等措施。

第二十八条 本節の規定は、香港特別行政区の法律に依拠して、他のテロ活動犯罪について刑事責任を追求したり財産を凍結したりする措置には影響しない。

本節の規定は、香港法に基づくテロ活動への刑事責任及び財産凍結等の措置に影響を与えない旨の規定。一般に、本法の規定と香港法の規定が異なる場合には香港法の規定の適用が排除されるが(62条)、28条はその例外規定。

 

第四节 勾结外国或者境外势力危害国家安全罪/第4節 外国勢力又は境外勢力と結託して国家安全に危害を及ぼす罪

第二十九条 为外国或者境外机构、组织、人员窃取、刺探、收买、非法提供涉及国家安全的国家秘密或者情报的;请求外国或者境外机构、组织、人员实施,与外国或者境外机构、组织、人员串谋实施,或者直接或者间接接受外国或者境外机构、组织、人员的指使、控制、资助或者其他形式的支援实施以下行为之一的,均属犯罪:

  (一)对中华人民共和国发动战争,或者以武力或者武力相威胁,对中华人民共和国主权、统一和领土完整造成严重危害;

  (二)对香港特别行政区政府或者中央人民政府制定和执行法律、政策进行严重阻挠并可能造成严重后果;

  (三)对香港特别行政区选举进行操控、破坏并可能造成严重后果;

  (四)对香港特别行政区或者中华人民共和国进行制裁、封锁或者采取其他敌对行动;

  (五)通过各种非法方式引发香港特别行政区居民对中央人民政府或者香港特别行政区政府的憎恨并可能造成严重后果。

  犯前款罪,处三年以上十年以下有期徒刑;罪行重大的,处无期徒刑或者十年以上有期徒刑。

  本条第一款规定涉及的境外机构、组织、人员,按共同犯罪定罪处刑。

第二十九条 外国または境外の機構・組織・人員のために、国家安全に影響を与える国家秘密または情報を窃取・スパイ行為・買収・違法に提供する場合ならびに以下の行為のひとつを実施することを外国または境外の機構・組織・人員に対して求める場合、外国または境外の機構・組織・人員と共謀する場合、または直接的あるいは間接的に外国または境外の機構・組織・人員の指図・コントロール・金銭的な援助またはその他の形式の支援を受けて実施する場合は、等しく犯罪とする。

中華人民共和国に対して戦争を発動して、または武力または武力による威嚇をもって、中華人民共和国の主権・統一・領土の保全に対して重大な危害を加えた場合

香港特別行政区政府または中央人民政府が法律・政策を制定または執行することを阻み妨げ、重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

香港特別行政区の選挙の操作を実施し、破壊し重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

香港特別行政区または中華人民共和国に対して制裁を実施・封鎖・または他の敵対行為を取った場合

⑸各種の違法な方法を通じて、香港特別行政区の住民の、中央人民政府または香港特別行政区政府に対する恨みを引き起こし、重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

前項に定める犯罪について、三年以上十年以下の有期刑とする。罪が重大な場合には無期懲役または十年以上の有期刑とする。

本条第一項規定が及ぶ境外の機構・組織・人員は共同犯罪に照らして罪を決定する。

1項前段は外国又は境外の機構等への国家機密の提供の処罰規定。後段は外患誘致等の処罰の対象となる行為を各号列記。「境外」について定義はないが、台湾を念頭に置いたもの。後述の43条の「實施細則」は、台湾と明記している。1号は中華人民共和国との戦争等。2号は香港法又は中国法の執行、政策執行等を阻害し、それにより重大な結果をもたらし得ること。3号は香港の選挙を操作又は破壊し、それにより重大な結果をもたらし得ること。4号は香港又は中華人民共和国への制裁、封鎖その他の敵対的行動。(中国に制裁を行い得る国として、どの国を念頭に置いているかは説明不要。)5号は違法な方法により香港居民の中央人民政府又は香港政府への憎悪を引き起こし、それにより重大な結果をもたらし得ること。5号は「違法な方法により」と明記しているのに対し、4号にはそれがないことから、適法なものを含めあらゆる制裁等を犯罪とする趣旨ともとれる。具体的にどのような場合に適法に制裁を行い得るかについては、国際法の教科書を参照。2号、3号及び5号は、一定の行為が重大な結果をもたらし得ることが要件とされているが、具体的にどのような結果が生じることが想定されているのかは不明。2項は法定刑に関する規定。「犯罪行為が重大なもの(罪行重大的)」については、法定刑を加重。「罪行重大的」という文言は、他の箇所では「对首要分子或者罪行重大的」という書きぶりで、より重い特別類型として一般的な類型より前に置かれているのに対し、同項では「罪行重大的」が一般類型の後に付加されている。法制工作委員会の原案にはなかった規定で、常務委員会での審議の過程で後から付け加わった規定ではないかと想像される。3項は、1項の規定に関係した境外の機構、組織及び人員について「共同犯罪」として処罰する旨の規定。具体的にどのような態様を想定しているのか明らかではないが、境外の機構等については、大陸と同様に中国刑法第1編第2章第3節の「共同犯罪」の規定を適用する趣旨か。

 

第三十条 为实施本法第二十条、第二十二条规定的犯罪,与外国或者境外机构、组织、人员串谋,或者直接或者间接接受外国或者境外机构、组织、人员的指使、控制、资助或者其他形式的支援的,依照本法第二十条、第二十二条的规定从重处罚。

第三十条 本法二十条・二十二条に規定する犯罪を実施しようとして、外国または境外の機構・組織・人員と共謀し、あるいは直接または間接的に外国または国外の機構・組織・人員の指図・コントロール・資金の援助またはその他の形式の支援を受けた場合には、本法二十条・二十二条双方の法定刑の範囲内でより重く処罰する。

20条及び22条の犯罪を行うために外国若しくは境外の機構等の共謀し、又はそれらの支援を受けた場合には、20条及び22条の法定刑の範囲内でより重く処罰する(从重。中国刑法62条参照)旨の規定。

 

第五节 其他处罚规定/第5節 そのほかの処罰規定

第三十一条 公司、团体等法人或者非法人组织实施本法规定的犯罪的,对该组织判处罚金。

  公司、团体等法人或者非法人组织因犯本法规定的罪行受到刑事处罚的,应责令其暂停运作或者吊销其执照或者营业许可证。

第三十一条 会社・団体などの法人あるいは法人でない組織が本法に定める犯罪を実施した場合には、組織として取り扱い当該組織に罰金を科す。

会社・団体などの法人あるいは法人でない組織が本法に規定する罪行を犯し刑事処罰を受けた場合には、責任を持って業務の一時停止を命令、または営業の許可証を取り下げる。

1項は、法人及び法人格のない組織の処罰規定。法人等に自由刑を科すのは不可能なので、財産刑のみ可能。実際に行為を行うのは自然人だが、どのような場合に自然人の行為の効果が法人等に帰属し得るのかは、法人論の重要論点で難しいので省略。日本法には法人格のない組織の処罰は存在せず、本条ではどのような論拠でそれが可能になっているのかは、よくわからないので省略。法人格のない組織にどのようなものが含まれるのかは不明だが、犯罪行為や刑事手続の主体となり、刑罰を科すに足りる程度の実体を備えていることは、当然必要。以上について民法の議論がある程度参考になると思われるが、それを刑事法にも適用することは必然ではない。2項で法人等が刑事罰を受けた場合の業務停止命令等について規定。命令等を行う主体は明記されていない。他の関係法令による業務停止命令等が可能である場合について、命令主体が命令を出すことを促すものか。あるいは、業務停止命令等を行う権限を(当局に対して??)創設的に付与したものであることも考えられるが、そのための手続、命令等の遵守を担保する措置等は規定されていない。趣旨不明の規定。

 

第三十二条 因实施本法规定的犯罪而获得的资助、收益、报酬等违法所得以及用于或者意图用于犯罪的资金和工具,应当予以追缴、没收。

第三十二条 本法に規定する犯罪を実施して獲得した援助・収益・報酬などの違法所得および犯罪に用いた、または用いようと意図した資金や道具は、追納・没収しなければならない。

追徴及び没収に関する規定。追徴及び没収については、中国刑法64条を参照。日本法の「追徴」「没収」とは異なる。

 

第三十三条 有以下情形的,对有关犯罪行为人、犯罪嫌疑人、被告人可以从轻、减轻处罚;犯罪较轻的,可以免除处罚:

  (一)在犯罪过程中,自动放弃犯罪或者自动有效地防止犯罪结果发生的;

  (二)自动投案,如实供述自己的罪行的;

  (三)揭发他人犯罪行为,查证属实,或者提供重要线索得以侦破其他案件的。

  被采取强制措施的犯罪嫌疑人、被告人如实供述执法、司法机关未掌握的本人犯有本法规定的其他罪行的,按前款第二项规定处理。

第三十三条 以下の定める状況においては、犯罪行為を行った人・容疑者・被告人の処罰を法定刑の範囲内で軽減、または法定刑を下回る軽減をすることができる。刑が軽い人は、刑を免除することができる。

⑴犯罪の過程において、自発的に犯罪を放棄した場合、または自発的に犯罪結果の発生を有効に防止した場合

⑵自発的に自首して、事実に基づいて自身のその他の罪行を供述した場合

⑶他人の犯罪行為を告発し、捜査で事実だと証明される、または他の事件の捜査を進めるための重要な手がかりを提供した場合

強制措置を取られた容疑者・被告人が事実に基づいて供述し、行政・司法機関が把握していない本人の本法に規定する他の犯罪があった場合には、前項第二号の規定に基づいて処理する。

1項各号のいずれかに該当する場合は、犯罪行為を行った者、容疑者又は被告人は、法定刑の範囲内でより軽く処罰し(从轻。中国刑法62条参照)、若しくは法定刑より下の刑を科し(减轻。中国刑法63条参照)、又は処罰を免除する旨を規定。被告人ではない、犯罪行為を行った者や容疑者でも処罰されたり刑の免除があり得るかのような規定。そもそも起訴されることがない、という趣旨か? 1号は中止(中国刑法24条)、2号は自首(中国刑法67条1項)、3号は立功(中国刑法68条)に相当。2項は中国刑法67条2項に相当。

 

第三十四条 不具有香港特别行政区永久性居民身份的人实施本法规定的犯罪的,可以独立适用或者附加适用驱逐出境。

  不具有香港特别行政区永久性居民身份的人违反本法规定,因任何原因不对其追究刑事责任的,也可以驱逐出境。

第三十四条 香港特別行政区の永久性居民の身分を持っていない人が本法に規定する犯罪を実施した場合には、独立的にまたは付加的に国外追放を適用することができる。

香港特別行政区の永久性居民の身分を持たない人が本法の規定に違反した場合、いかなる理由でもそれに対して刑事責任を追求しなかった場合でも、国外追放できる。

1項で、本法の罰則規定に違反した永久性居民以外の者の追放を規定。中国刑法35条と同様の規定。追放を刑罰の1つと捉えられていると思われる。2項で、本法の規定(罰則規定のみならず、あらゆる規定)に違反した永久性居民以外の者の追放を規定。

 

第三十五条 任何人经法院判决犯危害国家安全罪行的,即丧失作为候选人参加香港特别行政区举行的立法会、区议会选举或者出任香港特别行政区任何公职或者行政长官选举委员会委员的资格;曾经宣誓或者声明拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法、效忠中华人民共和国香港特别行政区的立法会议员、政府官员及公务人员、行政会议成员、法官及其他司法人员、区议员,即时丧失该等职务,并丧失参选或者出任上述职务的资格。

  前款规定资格或者职务的丧失,由负责组织、管理有关选举或者公职任免的机构宣布。

第三十五条 いかなる人も裁判所を通して国家安全に危害を加える犯罪をしたと判決が出た場合には、香港特別行政区の立法会・区議会に立候補する資格、または香港特別行政区のあらゆる公職または行政長官選挙委員会委員になる資格を失う。かつて中華人民共和国香港特別行政区基本法を保護することを宣誓または声明で誓った場合、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を宣誓または声明で誓った場合も、立法会議員・政府官僚および公務員・行政議会の人員・裁判官およびに他の司法人員・区議会議員は、ただちに該当する職務を失い、上述の職務に立候補または任務に就く資格を失う。

前項に規定した資格または職務の喪失は、関係する選挙の組織および管理に責任を負い、又は公職の任免に責任を負う機構が宣言する。

1項前段で、国家の安全を害する行為を行った旨の判決を裁判所が出した者について、選挙の立候補へのDQを規定。有罪判決が出たことは要件となっていないので、処罰の免除(本法33条)や無罪判決の場合も含まれる。いずれの場合も、判決主文それ自体からは国家の安全を害する行為を行ったかどうかを判断できないので、判断理由中の事実認定から判断することになる。後段で、これらの者が宣誓等を行った立法会議員等である場合の失職を規定。基本法103条及び本法6条3項の宣誓等の主体と必ずしも一致していないが、あえて書き分けているのか、単に整理が不十分だったのかは不明。本条よりも6条3項の主体の方が広く、本条の対象とならない公務員も想定される。2項はDQ、失職等の公告の規定。

 

第六节 效力范围/第六節 効力の範囲

第三十六条 任何人在香港特别行政区内实施本法规定的犯罪的,适用本法。犯罪的行为或者结果有一项发生在香港特别行政区内的,就认为是在香港特别行政区内犯罪。

  在香港特别行政区注册的船舶或者航空器内实施本法规定的犯罪的,也适用本法。

第三十六条 いかなる人も香港特別行政区内で本法に規定する犯罪を実施した場合、本法を適用する。犯罪の行為または結果の一部が香港特別行政区内で発生した場合は、香港特別行政区内の犯罪とみなす。

香港特別行政区内に登記された船舶または航空機内で本法に規定された犯罪を行った場合も、本法を適用する。

本条で「香港特別行政区内」で行われた「あらゆる自然人及び法人等」の犯罪について、37条で「香港特別行政区外」で行われた「香港の永久性居民及び香港で設立された法人等」の犯罪について、38条で「香港特別行政区外」で香港特別行政区に対して行われた「香港の永久性居民以外の自然人」の犯罪について、本法を適用する旨を規定。これらのいずれにも該当しない、①「香港特別行政区外」で行われた「香港で設立されたものではない法人等」の犯罪及び②「香港特別行政区外」で行われた「香港の永久性居民以外の自然人」の犯罪であって香港特別行政区に対して行われたものではないものには、本法は適用されない。36条~38条の場合分けにどのような意義があるのか不明だが、刑事手続において違いが生じ得るか。36条1項前段、後段、2項が、それぞれ中国刑法6条1項、3項、2項に相当。中国刑法6条と規定の順序を入れ替えている理由は不明。なお、同条1項2項は、日本刑法1条と同様の規定。本法36条1項後段の「行為又は結果の一部」に当たるかをどのように判断するのかは不明だが、中国刑法の議論を参照。

 

第三十七条 香港特别行政区永久性居民或者在香港特别行政区成立的公司、团体等法人或者非法人组织在香港特别行政区以外实施本法规定的犯罪的,适用本法。

第三十七条 香港特別行政区の永久性居民または香港特別行政区内で設立された会社・団体などの法人あるいは非法人組織が香港特別行政区以外で本法に規定する犯罪を実施した場合、本法を適用する。

属人管轄に関する規定。

 

第三十八条 不具有香港特别行政区永久性居民身份的人在香港特别行政区以外针对香港特别行政区实施本法规定的犯罪的,适用本法。

第三十八条 香港特別行政区の永久性居民の身分がない人が香港特別行政区以外で香港特別行政区を的確に狙って本法に規定する犯罪を実施した場合には、本法を適用する。

香港特別行政区に対して行われた」という要件は、趣旨不明。行為又は結果の一部が香港で生じた場合には36条1項が適用されるので、その要件を満たさず、なおかつ香港特別行政区に対して行われたものとして犯罪が成立するのは、どのような場合か検討が必要。

 

第三十九条 本法施行以后的行为,适用本法定罪处刑。

第三十九条 本法が施行されて以降の行為に、本法の法定刑を適用する。

本法施行以後の行為について、罰則を適用する旨の規定。事前に報道されていた罰則の遡及適用は、規定されないことになった。本法は公布日施行だが(本法66条)、公布がいつの時点で行われたのかは定かではない。本法が成立したのは6月30日の午前だが、その時点では条文は公布されていなかった。香港では同日午後11時(現地時間)に「実施」され(基本法18条2項。「施行」ではない。香港の官報も「実施」という表現を使っている。)、同時に条文が公開された。仮に公布も同日にされているとすると、施行の時刻を同日0時にまで遡らせるのか、あるいは午後11時を施行の時刻とするのかは不明。仮に前者とすると、施行から香港での実施までの間の行為についても、処罰の対象となる可能性がある。施行の時刻を跨いで継続して犯罪行為を行っていた場合に、同時刻以後の行為にのみ罰則が適用されるのか、前後の行為を一体と考えて罰則を適用するのかは、論点となり得るが細かい話なので省略。 

香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第二章

第二章 香港特别行政区维护国家安全的职责和机构/第二章 香港特別行政区の国家安全維持に関する職責と機構

第一节 职责/第一節 職責

第七条 香港特别行政区应当尽早完成香港特别行政区基本法规定的维护国家安全立法,完善相关法律。

第七条 香港特別行政区はなるべく早く香港特別行政区基本法の国家安全維持に関する立法を完成させ、関連する法律を整備しなければならない。

香港に対して国家安全の維持に関する立法を義務付けた規定。基本法23条と同旨の規定か。そうであるならば意味があるのは「尽早」の部分だけで、独自の意義に乏しい。

 

第八条 香港特别行政区执法、司法机关应当切实执行本法和香港特别行政区现行法律有关防范、制止和惩治危害国家安全行为和活动的规定,有效维护国家安全。

第八条 香港特別行政区の行政機関、司法機関は本法および香港特別行政区の現行の法律の中の国家安全に危害を加える行為および活動を予防し制止し処罰する規定を確実に執行し、国家安全を有効に維持しなければならない。

3条3項の義務を、法律の執行の局面について再度明記した規定であり、独自の意義に乏しい。

 

第九条 香港特别行政区应当加强维护国家安全和防范恐怖活动的工作。对学校、社会团体、媒体、网络等涉及国家安全的事宜,香港特别行政区政府应当采取必要措施,加强宣传、指导、监督和管理。

第九条 香港特別行政区は国家安全の維持とテロ活動を予防する方策を強化しなければならない。学校・社会団体・メディア・インターネット上の国家安全に関わる事柄について、香港特別行政区政府は必要な措置を採り、宣伝・指導・監督・管理を強化しなければならない。

前段で香港特別行政区による国家安全の維持及びテロ防止の強化を規定。後段は、香港政府が学校、社会団体、メディア、ネット等に対して必要な措置をとることを義務付けている規定。具体的な内容は今後政府により明らかにされるか。前段の主語は香港特別行政区、後段の主語は香港政府であることに注意。後段の規定は前段の規定に包含され、その一部を特記したものか。

 

第十条 香港特别行政区应当通过学校、社会团体、媒体、网络等开展国家安全教育,提高香港特别行政区居民的国家安全意识和守法意识。

第十条 香港特別行政区は学校・社会団体・メディア・インターネット等を通して、国家安全教育を展開し、香港特別行政区の住民の国家安全意識と遵法意識を高めなければならない。

香港特別行政区の国家安全教育等に関する措置を特記した規定。前条の規定に包含されると考えられ、9条と10条の関係の整理が不十分な印象を与える。

 

第十一条 香港特别行政区行政长官应当就香港特别行政区维护国家安全事务向中央人民政府负责,并就香港特别行政区履行维护国家安全职责的情况提交年度报告。

如中央人民政府提出要求,行政长官应当就维护国家安全特定事项及时提交报告。

第十一条 香港特別行政区行政長官香港特別行政区の国家安全の維持に関する事柄について中央人民政府に対して責任を負い、合わせて香港特別行政区における国家安全維持に関する職責の履行状況について、毎年年度報告を提出しなければならない。

 中央人民政府から提出の要求があったときには、行政長官は国家安全維持の特定事項について適時報告を提出しなければならない。

1項前段で、行政長官は、中央人民政府に対して国家安全維持事務の責任を負うことを明記。中央人民政府の「根本责任」(3条1項)及び行政長官の中央人民政府への責任がその根拠と考えられる。同項後段及び2項は、中央人民政府への報告義務の規定。

 

第二节 机构/第二節 機構

※組織を新設する旨の規定も公布日施行となっているが、おそらく立法のミス。6月30日の法律施行から7月3日の国家安全維持委員会設立までの間は、法律の定める義務を香港特別行政区が履行できない状態が続いたことになる。本節だけでも公布から施行までの間に準備期間を設けるべき。

 

第十二条 香港特别行政区设立维护国家安全委员会,负责香港特别行政区维护国家安全事务,承担维护国家安全的主要责任,并接受中央人民政府的监督和问责。

第十二条 香港特別行政区は国家安全維持委員会を設立し、香港特別行政区における国家安全維持業務に対する責任を負い、国家安全維持に関する主要な責任を引き受け、合わせて中央人民政府の監督と問責を受ける。

香港に国家安全維持委員会を設置する旨、国家安全維持の「主要責任」(≠根本責任)を負う旨並びに中央人民政府の監督及び問責を受ける旨を規定。「問責」という語は、憲法基本法その他の中国法には管見の限り見当たらず、その意味するところは不明。法律用語ではないと考えられる。なお、共産党には「中国共产党问责条例」等が制定されている。

 

十三条 香港特别行政区维护国家安全委员会由行政长官担任主席,成员包括政务司长、财政司长、律政司长、保安局局长、警务处处长、本法第十六条规定的警务处维护国家安全部门的负责人、入境事务处处长、海关关长和行政长官办公室主任。

香港特别行政区维护国家安全委员会下设秘书处,由秘书长领导。秘书长由行政长官提名,报中央人民政府任命。

十三条 香港特別行政区国家安全維持委員会は行政長官が首席を担当し、他に政務司司長・財政長官・律政司司長・保安局局長・警察署長・本法十六条により規定される警察署内の国家安全維持部門の責任者・入国管理局局長・税関長および行政長官室の主任をメンバーに含む。

香港特別行政区国家安全委員会は事務局を設置し、その事務長が指揮を取る。事務長は行政長官が候補者を出し、中央人民政府に報告し、中央人民政府が任命する。

合議体の構成員と、委員会の下に置かれる事務局についての規定。これだけでは不十分なので、組織に関する規定の整備が必要。

 

 第十四条 香港特别行政区维护国家安全委员会的职责为:

(一)分析研判香港特别行政区维护国家安全形势,规划有关工作,制定香港特别行政区维护国家安全政策;

(二)推进香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制建设;

(三)协调香港特别行政区维护国家安全的重点工作和重大行动。

香港特别行政区维护国家安全委员会的工作不受香港特别行政区任何其他机构、组织和个人的干涉,工作信息不予公开。香港特别行政区维护国家安全委员会作出的决定不受司法复核。

第十四条 香港特別行政区国家安全維持委員会の職責は:

香港特別行政区の国家安全維持体制を分析し研究し判断し、関連する業務を計画し、香港特別行政区の国家安全維持政策を制定する。

香港特別行政区の国家安全維持に関する法律制度と、執行機関の建設を推進する

香港特別行政区における国家安全維持に関する重要な業務と行動に関する政府の意見をまとめる。

香港特別行政区国家安全維持委員会の業務は、香港における他の機構・組織・または個人の干渉を受けず、業務の情報は非公開とし、香港特別行政区国家安全維持委員会が出した決定は司法審査を受けない。

1項で国家安全維持委員会の職責を各号列記。1号で国家安全維持に関する政策の立案等、2号で法制度及び執行機関の整備の推進、3号で香港の関係業務の統合・調整等を規定。2号については、法案の立案・提出権は主に政府にある(基本法62条5号。同法74条には、限定的だが議員立法についての規定もある。)ので、国家安全維持委員会が政府に対して、関係する法制度を整備するよう働きかけることが想定されるか。2項で、香港の他の機関等からの国家安全維持委員会の独立、情報の非公開、委員会の決定についての司法審査の排除等を規定。司法審査で委員会の決定が無効とされるかどうか以前の問題として、そもそも委員会にとっては、訴訟において自らの決定の適法性を裁判官に対して主張・立証しなければならないこと自体が耐えられないと想像される。委員会の決定以外の事項に関する事後的な司法審査を含め、立法機関、司法機関等がどの程度事前・事後に国家安全維持委員会を統制できるのかは不明だが、事実上、委員会は既存の香港法を含め、香港の法律等に一切拘束されないとも考えられる。 

 

第十五条 香港特别行政区维护国家安全委员会设立国家安全事务顾问,由中央人民政府指派,就香港特别行政区维护国家安全委员会履行职责相关事务提供意见。国家安全事务顾问列席香港特别行政区维护国家安全委员会会议。

第十五条 香港特別行政区国家安全維持委員会は国家安全事務顧問を設置し、この人物は中央人民政府から派遣するものとし、香港特別行政区国家安全維持委員会が職責を履行する際に関連する業務について意見を述べる。国家安全事務顧問は香港特別行政区国家安全委員会の会議に出席する。

国家安全維持委員会に中央人民政府の指名する顧問を置く旨を規定。委員会の設立と同日の7月3日に、中聯辦の駱惠寧主任が顧問に任命されている。顧問は委員会に意見の提供を行い、委員会に同席する。中央人民政府が顧問を通じて委員会の判断に大きな影響を与えることが予想されるが、本法第5章の定める国家安全維持公署に委員会に対する指揮監督権が与えられているため(53条1項)、機能が重複する感が否めない。

 

第十六条 香港特别行政区政府警务处设立维护国家安全的部门,配备执法力量。

警务处维护国家安全部门负责人由行政长官任命,行政长官任命前须书面征求本法第四十八条规定的机构的意见。警务处维护国家安全部门负责人在就职时应当宣誓拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法,效忠中华人民共和国香港特别行政区,遵守法律,保守秘密。

警务处维护国家安全部门可以从香港特别行政区以外聘请合格的专门人员和技术人员,协助执行维护国家安全相关任务。

第十六条 香港特別行政区の警務処の中に国家安全維持部門を設立し、この機関に法を執行する権限を割り当てる。

警務処内の国家安全部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官が任命する前には必ず書面で本法四十八条に定める機構の意見を書面で募集しなければならない。警務処の国家安全維持部門の責任者が就任する際には、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠と、法律を遵守すること、秘密を守ることを宣誓しなければならない。

警務処の国家安全維持部門は香港特別行政区以外からふさわしい専門性を有する人員や技術者を招聘することができ、国家安全維持に関する任務を援助することができる。

警務処に国家安全維持部門を新設する旨の規定。2項で同部門の責任者は行政長官により任命される旨、就任時に基本法擁護、香港への忠誠、法律遵守、秘密保持を宣誓する旨等を規定。宣誓の内容のうち前二者については6条3項と重複するため不要。後二者については、類似の規定は香港の他の法令にはなく、中国法の影響が見られる。あらゆる公務員のうち国家安全維持部門の責任者及び後述の律政司の関係部門の責任者にだけ法律遵守と秘密保持の宣誓が求められるというのも不自然なので、不要ではないか。3項で、同部門が本土から人員を招聘できる旨を規定。

 

第十七条 警务处维护国家安全部门的职责为:

(一)收集分析涉及国家安全的情报信息;

(二)部署、协调、推进维护国家安全的措施和行动;

(三)调查危害国家安全犯罪案件;

(四)进行反干预调查和开展国家安全审查;

(五)承办香港特别行政区维护国家安全委员会交办的维护国家安全工作;

(六)执行本法所需的其他职责。

第十七条 警務処国家安全維持部門の職責は:

⑴国家安全に関する情報やニュースを収集し分析する

⑵国家安全維持に関する措置と行動に関して意見をまとめ、組織を設立し、推し進める

⑶国家安全に危害を加える犯罪案件について調査する

⑷内政に干渉する外国勢力について調査を実施し、国家安全審査を展開する

香港特別行政区国家安全維持委員会が処理させる国家安全維持業務を引き受ける

⑹本法に必要なその他の職責を執行する

警務処の国家安全維持部門の職責を各号列記。1号から5号は、相互の関係をよく整理せずに思いつくままに並べている印象。6号は包括条項。

 

第十八条 香港特别行政区律政司设立专门的国家安全犯罪案件检控部门,负责危害国家安全犯罪案件的检控工作和其他相关法律事务。该部门检控官由律政司长征得香港特别行政区维护国家安全委员会同意后任命。

律政司国家安全犯罪案件检控部门负责人由行政长官任命,行政长官任命前须书面征求本法第四十八条规定的机构的意见。律政司国家安全犯罪案件检控部门负责人在就职时应当宣誓拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法,效忠中华人民共和国香港特别行政区,遵守法律,保守秘密。

第十八条 香港特別行政区の律政司は専門的に国家安全犯罪案件を検挙し起訴する部門を設立し、その部門は国家安全に危害を加える犯罪案件を検挙し起訴する業務と、それに関わるその他の法律事務に責任を負う。

裁判所内の国家安全部門に関わる犯罪案件を検挙し控訴する部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官が任命する前には必ず書面で本法四十八条に定める機構の意見を書面で募集しなければならない。裁判所内の国家安全部門に関わる犯罪案件を検挙し控訴する部門の責任者が就任する際には、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠と、法律を遵守すること、秘密を守ることを宣誓しなければならない。

1項は律政司に国家安全犯罪に関する部門を新設する旨の規定。2項は16条2項の「警务处维护国家安全部门负责人」を「律政司国家安全犯罪案件检控部门负责人」に変えただけなので、同項を準用するのが簡潔。前述のとおり、宣誓に関する規定は不要と考えられる。

 

第十九条 经行政长官批准,香港特别行政区政府财政司长应当从政府一般收入中拨出专门款项支付关于维护国家安全的开支并核准所涉及的人员编制,不受香港特别行政区现行有关法律规定的限制。财政司长须每年就该款项的控制和管理向立法会提交报告。

第十九条 行政長官に承認を受けて、香港特別行政区の財政司司長は政府の一般収入の中から国家安全維持に関する専門的な支出項目を設け、合わせてこれに関わる人員編成について審査の上で許可しなければならず、これは香港特別行政区の現行の法律規定の制限を受けないものとする。財政司司長は毎年この支出項目の制御と管理について立法会に報告を提出する。

国家安全維持に関する予算支出に関する規定。香港政府の予算編成権(基本法62条4号)や立法会の予算議決・審議権(基本法73条2号)の重大な侵害であり、基本法107条の規定する予算原則にも抵触するものだが、本法19条は現行法の規定による制限を明示的に排除している。「現行」であるかをいつの時点を基準にして判断するのかは不明だが、今後関係する法律の制定・改廃があったとしても、国家安全維持に関する予算はそれらに制約されないものと考えるべきか。  

 

香港 国家安全法 解説付き全文和訳 第一章

第一章 总则 /第一章 総則

第一条 为坚定不移并全面准确贯彻“一国两制”、“港人治港”、高度自治的方针,维护国家安全,防范、制止和惩治与香港特别行政区有关的分裂国家、颠覆国家政权、组织实施恐怖活动和勾结外国或者境外势力危害国家安全等犯罪,保持香港特别行政区的繁荣和稳定,保障香港特别行政区居民的合法权益,根据中华人民共和国宪法、中华人民共和国香港特别行政区基本法全国人民代表大会关于建立健全香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制的决定,制定本法。

第一条 「一国二制度」と「港人港治」ならびに高度な自治の方針、国家安全の維持、また香港特別行政区における国家分裂、国家政権の転覆、外国ならびに国外の勢力と結託して国家安全等に危害を加える犯罪を予防し処罰することを、そして香港特別行政区の繁栄と安定を維持することを、香港特別行政区の住民の合法的な権利と利益を保障することを、これらを揺るぎなくまた全面的に確かに貫徹するために、中華人民共和国憲法香港特別行政区基本法、そして全国人民代表大会における香港特別行政区の健全な国家安全維持の法律制度を設立し執行する決定を根拠として、本法を制定する。

本法の目的規定。複数の目的を、統一感なくばらばらと列記。

 

第二条 关于香港特别行政区法律地位的香港特别行政区基本法第一条和第十二条规定是香港特别行政区基本法的根本性条款。香港特别行政区任何机构、组织和个人行使权利和自由,不得违背香港特别行政区基本法第一条和第十二条的规定。

第二条 香港特別行政区の法的地位を定めた香港特別行政区基本法第一条ならびに第十二条の規定は、香港特別行政区基本法における最も基礎的な条項である。香港特別行政区におけるすべての(国家)機構、組織ならびに個人が行使する権利と自由は、香港特別行政区基本法第一条ならびに第十二条の規定に背いてはならない。

香港の地位に関する基本法1条(中国の一部)及び12条(高度の自治等)を「根本性条款」と位置付けているが、その根拠は不明。香港の機構、組織及び個人はこの2か条に違反してはならないとしているが、自明のことであり意義に乏しい。

 

第三条 中央人民政府对香港特别行政区有关的国家安全事务负有根本责任。

香港特别行政区负有维护国家安全的宪制责任,应当履行维护国家安全的职责。

香港特别行政区行政机关、立法机关、司法机关应当依据本法和其他有关法律规定有效防范、制止和惩治危害国家安全的行为和活动。

第三条 中央人民政府は香港特別行政区における国家安全に対する事柄に本質的な責任を負う。

香港特別行政区は国家安全を維持する責任を負い、国家安全を維持する職責を履行すべきである。

香港特別行政区における行政機関・立法機関・司法機関は本法および他の関連する法律規定に基づいて、国家安全に危害を加える行為や活動を制止し処罰しなければならない。

1項で、中央人民政府が香港の国家安全事務に「根本责任」を負う旨を規定。基本法及び中華人民共和国憲法(以下「憲法」という。)に同様の規定はなく、創設的な規定とも考えられる。「根本责任」の内容は不明。なお、憲法28条は国家それ自身に国家の安全維持義務を課している。2項で香港特別行政区の国家安全維持の「宪制责任」を規定。その意味するところは不明だが、「憲法の定める責任」という意味だとするならば、憲法28条の国家の安全維持義務のことか。そうであるならば、同条の義務が特別行政区憲法31条)にも適用されることについて、何らかの説明が必要。一般に、憲法の規定はそもそも特別行政区には適用されないのか、あるいは適用はされるが特別行政区の特殊性により排除されるものもあると考えるのか、ということ自体に議論の余地あり。以下の規定でも香港に対して種々の義務を課しているが、それが憲法の規定を確認し、若しくは具体化したものなのか、又は国安法が創設した義務なのかは、個々に議論の余地あり。3項で香港の行政機関、立法機関及び司法機関が本法その他関係法律に基づく義務を負うことを確認的に規定。

 

第四条 香港特别行政区维护国家安全应当尊重和保障人权,依法保护香港特别行政区居民根据香港特别行政区基本法和《公民权利和政治权利国际公约》、《经济、社会与文化权利的国际公约》适用于香港的有关规定享有的包括言论、新闻、出版的自由,结社、集会、游行、示威的自由在内的权利和自由。

第四条 香港特別行政区の国家安全維持は人権を保障し尊重し、香港特別行政区基本法及び『市民的及び政治的権利に関する国際規約』・『経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約』を香港において適用している関係規定に基づき、言論・報道・出版・結社・行進・デモの自由を含む自由の権利を有する。

基本法及び自由権規約社会権規約を香港に適用する関係規定による人権保障について確認。国安法の制定に伴い、基本法その他の法律を改廃しているわけではないので、当然のことを確認した規定。自由権規約社会権規約は香港に直接適用されないことに注意が必要。自由権規約の香港での実施法である人権法案条例については、本法62条で、本法と抵触する規定は適用が排除されると考えられる。「适用于香港」は、他の箇所と表記を統一して「适用于香港特别行政区」とすべき。立法の不備。なお、6条1項に「香港同胞」という語が出てくるが、これは「香港同胞」で1語と考えるべきか。52条の「中国人民解放军驻香港部队」も同様。

 

第五条 防范、制止和惩治危害国家安全犯罪,应当坚持法治原则。法律规定为犯罪行为的,依照法律定罪处刑;法律没有规定为犯罪行为的,不得定罪处刑。

任何人未经司法机关判罪之前均假定无罪。保障犯罪嫌疑人、被告人和其他诉讼参与人依法享有的辩护权和其他诉讼权利。任何人已经司法程序被最终确定有罪或者宣告无罪的,不得就同一行为再予审判或者惩罚。

第五条 国家安全に危害を加える行為を予防し制止し処罰する際には、法治の原則に則るべきである。法律に規定のある犯罪行為については、法律に基づいて裁かれ、法律に規定のない犯罪行為については、これを裁かれることはない。

いかなる人も司法機関で刑が定められる前は等しく無罪と推定する。容疑者、被告人および訴訟に関係するその他すべての人は、法律に基づき弁護を受ける権利とそのほかの訴訟に関係する権利を保障される。いかなる人も、一度司法の手順を踏んで有罪または無罪の最終決定が出たあとに、再び同じ行為について裁判にかけられたり処罰を受けたりすることはない。

1項で法治の原則及び罪刑法定主義を明記。中国刑法3条と同旨。なお、「危害国家安全犯罪」という語はこの法律中に22回出てくるが、定義はされていない。本法第3章に規定された犯罪のみを指すのか、それ以外の犯罪も含まれるのかは不明だが、55条等では「本法规定的危害国家安全犯罪案件」とあえて明記していることから、それ以外の「危害国家安全犯罪」には第3章に規定された犯罪以外も含まれると解するべきか。2項はいわゆるdue processに関する規定。いずれも基本法及び人権法案条例にも同様の規定があり、香港の既存の刑事法についてこの規定を適用する意義は乏しい。本法に基づき新設される刑事実体法・手続法について、確認的に規定したものか。

 

第六条维护国家主权、统一和领土完整是包括香港同胞在内的全中国人民的共同义务。

在香港特别行政区的任何机构、组织和个人都应当遵守本法和香港特别行政区有关维护国家安全的其他法律,不得从事危害国家安全的行为和活动。

香港特别行政区居民在参选或者就任公职时应当依法签署文件确认或者宣誓拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法,效忠中华人民共和国香港特别行政区。

第六条 国家主権を維持し、統一を保ち、領土保全を保証することは、香港人を含む全中国人民の共同義務である。

香港特別行政区におけるいかなる機関・組織・個人も、本法と香港特別行政区の国家安全の維持に関するそのほかの法律を遵守し、国家安全に危害を加える行為または活動に従事してはならない。

香港特別行政区の住民が選挙に立候補、または公職に就任した時は、法律に基づき文書に署名する、または宣誓するという方法で、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠を確認しなければならない。

1項で、国家の主権、統一及び領土の一体性の維持が香港市民を含む中国人民の義務であることを規定。憲法52条の中国公民の国家統一・民族団結の維持義務と類似しているが、必ずしもそれに包含されるものではないと考えられる。香港市民を含む中国人民に対して、新たな義務を創設した規定か。「香港同胞」について定義はないが、中国人民の例示の1つであり、中国国籍を有しない者は含まれないと考えられる。2項で国家の安全を害する行為の禁止を総則的に規定。具体的な内容は本法の各条項で明記。3項は立候補者及び公職に就任する者の宣誓義務・忠実義務に関する規定。一部の公務員については基本法104条に同旨の規定があるが、義務が及ぶ者の範囲を拡大している。公務員ではないただの立候補者にも義務を課している趣旨は(DQを連発すること以外には)不明。なお、日本国憲法99条も公務員一般について憲法尊重擁護義務を課しているが、それ以外の国民一般には義務は課されていない。

 

中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法 全文和訳

第一章 総則

 

第一条 「一国二制度」と「港人港治」ならびに高度な自治の方針、国家安全の維持、また香港特別行政区における国家分裂、国家政権の転覆、外国ならびに国外の勢力と結託して国家安全等に危害を加える犯罪を予防し処罰することを、そして香港特別行政区の繁栄と安定を維持することを、香港特別行政区の住民の合法的な権利と利益を保障することを、これらを揺るぎなくまた全面的に確かに貫徹するために、中華人民共和国憲法香港特別行政区基本法、そして全国人民代表大会における香港特別行政区の健全な国家安全維持の法律制度を設立し執行する決定を根拠として、本法を制定する。

 

第二条 香港特別行政区の法的地位を定めた香港特別行政区基本法第一条ならびに第十二条の規定は、香港特別行政区基本法における最も基礎的な条項である。香港特別行政区におけるすべての(国家)機構、組織ならびに個人が行使する権利と自由は、香港特別行政区基本法第一条ならびに第十二条の規定に背いてはならない。

 

第三条 中央人民政府は香港特別行政区における国家安全に対する事柄に本質的な責任を負う。

香港特別行政区は国家安全を維持する責任を負い、国家安全を維持する職責を履行すべきである。

香港特別行政区における行政機関・立法機関・司法機関は本法および他の関連する法律規定に基づいて、国家安全に危害を加える行為や活動を制止し処罰しなければならない。

 

第四条 香港特別行政区の国家安全維持は人権を保障し尊重し、香港特別行政区基本法及び『市民的及び政治的権利に関する国際規約』・『経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約』を香港において適用している関係規定に基づき、言論・報道・出版・結社・行進・デモの自由を含む自由の権利を有する。

 

第五条 国家安全に危害を加える行為を予防し制止し処罰する際には、法治の原則に則るべきである。法律に規定のある犯罪行為については、法律に基づいて裁かれ、法律に規定のない犯罪行為については、これを裁かれることはない。

 

いかなる人も司法機関で刑が定められる前は等しく無罪と推定する。容疑者、被告人および訴訟に関係するその他すべての人は、法律に基づき弁護を受ける権利とそのほかの訴訟に関係する権利を保障される。いかなる人も、一度司法の手順を踏んで有罪または無罪の最終決定が出たあとに、再び同じ行為について裁判にかけられたり処罰を受けたりすることはない。

 

第六条 国家主権を維持し、統一を保ち、領土保全を保証することは、香港人を含む全中国人民の共同義務である。

 

香港特別行政区におけるいかなる機関・組織・個人も、本法と香港特別行政区の国家安全の維持に関するそのほかの法律を遵守し、国家安全に危害を加える行為または活動に従事してはならない。

 

香港特別行政区の住民が選挙に立候補、または公職に就任した時は、法律に基づき文書に署名する、または宣誓するという方法で、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠を確認しなければならない。

 

第二章 香港特別行政区の国家安全維持に関する職責と機構

 

第一節 職責

 

第七条 香港特別行政区はなるべく早く香港特別行政区基本法の国家安全維持に関する立法を完成させ、関連する法律を整備しなければならない。

 

第八条 香港特別行政区の行政機関、司法機関は本法および香港特別行政区の現行の法律の中の国家安全に危害を加える行為および活動を予防し制止し処罰する規定を確実に執行し、国家安全を有効に維持しなければならない。

 

第九条 香港特別行政区は国家安全の維持とテロ活動を予防する方策を強化しなければならない。学校・社会団体・メディア・インターネット上の国家安全に関わる事柄について、香港特別行政区政府は必要な措置を採り、宣伝・指導・監督・管理を強化しなければならない。

 

第十条 香港特別行政区は学校・社会団体・メディア・インターネット等を通して、国家安全教育を展開し、香港特別行政区の住民の国家安全意識と遵法意識を高めなければならない。

 

第十一条 香港特別行政区行政長官香港特別行政区の国家安全の維持に関する事柄について中央人民政府に対して責任を負い、合わせて香港特別行政区における国家安全維持に関する職責の履行状況について、毎年年度報告を提出しなければならない。

 

中央人民政府から提出の要求があったときには、行政長官は国家安全維持の特定事項について適時報告を提出しなければならない。

 

第二節 機構

 

第十二条 香港特別行政区は国家安全維持委員会を設立し、香港特別行政区における国家安全維持業務に対する責任を負い、国家安全維持に関する主要な責任を引き受け、合わせて中央人民政府の監督と問責を受ける。

 

十三条 香港特別行政区国家安全維持委員会は行政長官が首席を担当し、他に政務司司長・財政長官・律政司司長・保安局局長・警察署長・本法十六条により規定される警察署内の国家安全維持部門の責任者・入国管理局局長・税関長および行政長官室の主任をメンバーに含む。

 

香港特別行政区国家安全委員会は事務局を設置し、その事務長が指揮を取る。事務長は行政長官が候補者を出し、中央人民政府に報告し、中央人民政府が任命する。

 

第十四条 香港特別行政区国家安全維持委員会の職責は:

香港特別行政区の国家安全維持体制を分析し研究し判断し、関連する業務を計画し、香港特別行政区の国家安全維持政策を制定する。

香港特別行政区の国家安全維持に関する法律制度と、執行機関の建設を推進する

香港特別行政区における国家安全維持に関する重要な業務と行動に関する政府の意見をまとめる

 

香港特別行政区国家安全維持委員会の業務は、香港における他の機構・組織・または個人の干渉を受けず、業務の情報は非公開とし、香港特別行政区国家安全維持委員会が出した決定は司法審査を受けない。

 

第十五条 香港特別行政区国家安全維持委員会は国家安全事務顧問を設置し、この人物は中央人民政府から派遣するものとし、香港特別行政区国家安全維持委員会が職責を履行する際に関連する業務について意見を述べる。国家安全事務顧問は香港特別行政区国家安全委員会の会議に出席する。

 

第十六条 香港特別行政区の警務処の中に国家安全維持部門を設立し、この機関に法を執行する権限を割り当てる。警務処内の国家安全部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官が任命する前には必ず書面で本法四十八条に定める機構の意見を書面で募集しなければならない。警務処の国家安全維持部門の責任者が就任する際には、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠と、法律を遵守すること、秘密を守ることを宣誓しなければならない。

 

警務処の国家安全維持部門は香港特別行政区以外からふさわしい専門性を有する人員や技術者を招聘することができ、国家安全維持に関する任務を援助することができる。

 

第十七条 警務処国家安全維持部門の職責は:

⑴国家安全に関する情報やニュースを収集し分析する

⑵国家安全維持に関する措置と行動に関して意見をまとめ、組織を設立し、推し進める

⑶国家安全に危害を加える犯罪案件について調査する

⑷内政に干渉する外国勢力について調査を実施し、国家安全審査を展開する

香港特別行政区国家安全維持委員会が処理させる国家安全維持業務を引き受ける

⑹本法に必要なその他の職責を執行する

 

第十八条 香港特別行政区の律政司は専門的に国家安全犯罪案件を検挙し起訴する部門を設立し、その部門は国家安全に危害を加える犯罪案件を検挙し起訴する業務と、それに関わるその他の法律事務に責任を負う。

 

裁判所内の国家安全部門に関わる犯罪案件を検挙し控訴する部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官が任命する前には必ず書面で本法四十八条に定める機構の意見を書面で募集しなければならない。裁判所内の国家安全部門に関わる犯罪案件を検挙し控訴する部門の責任者が就任する際には、中華人民共和国香港特別行政区基本法の擁護と、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠と、法律を遵守すること、秘密を守ることを宣誓しなければならない。

 

第十九条 行政長官に承認を受けて、香港特別行政区の財政司司長は政府の一般収入の中から国家安全維持に関する専門的な支出項目を設け、合わせてこれに関わる人員編成について審査の上で許可しなければならず、これは香港特別行政区の現行の法律規定の制限を受けないものとする。財政司司長は毎年この支出項目の制御と管理について立法会に報告を提出する。

 

第3章 犯罪行為および処罰

 

第一節 分裂国家罪

 

第二十条 いかなる人も、以下に定める国家分裂・国家統一の破壊に当たる行為の一つでも組織したり画策したり実施したり参加したりした場合は、武力の使用または武力を使った威嚇の有無に関わらず、犯罪とする。

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地域を中華人民共和国から切り離そうとすること

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地域の法的地位を違法に改変しようとすること

香港特別行政区または中華人民共和国のその他すべての地位を外国に帰属させようとすること

前項の犯罪について、首謀者もしくは罪が重大だと認められる場合には、無期懲役もしくは十年以上の有期刑に、積極的に参加した人は三年以上十年以下の有期刑に、その他の参加者は三年以下の有期刑もしくは労役または保護観察とする。

 

第二十一条 いかなる人も他人が本法二十条に定める犯罪行為を行うために扇動・協助・教唆・金銭やその他の財産をもって支援した場合には、犯罪行為とする。事の内容が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑に、事の内容が軽微な場合には五年以下の有期刑、労役または保護観察とする。

 

第二節 転覆国家政権罪

 

第二十二条 いかなる人も、武力・武力を用いた威嚇行為・またはその他の違法な手段をもって、以下に定める国家政権転覆の行為の一つでも組織したり画策したり実施したり参加したりした場合には、犯罪とする。

中華人民共和国憲法が確立した中華人民共和国の重要な制度を転覆したり破壊したりすること

中華人民共和国の中央政権機関もしくは香港特別行政区の政権機関を転覆すること

中華人民共和国の中央政権機関もしくは香港特別行政区の政権機関が法に基づいて履行しようとする職務を深刻に邪魔したり阻んだり破壊したりすること

香港特別行政区の政権機関の職務を履行するための場所および設備を、正常な職務の履行が不可能なほどに攻撃または破壊すること

 

前項の犯罪について、首謀者もしくは罪が重大だと認められる場合には、無期懲役もしくは十年以上の有期刑に、積極的に参加した人は三年以上十年以下の有期刑に、その他の参加者は三年以下の有期刑もしくは労役または保護観察とする。

 

第二十三条 いかなる人も他人が本法二十二条に定める犯罪行為を行うために扇動・協助・教唆・金銭やその他の財産をもって支援した場合には、犯罪行為とする。事の内容が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑に、事の内容が軽微な場合には五年以下の有期刑、労役または保護観察とする。

 

第三節 テロ活動罪

 

第二十四条 中央人民政府・香港特別行政区政府または国際組織を脅迫し、または公衆を威嚇し脅し、もって政治的主張を実現しようと計画して、以下に定める社会に重大な危害を加えるテロ活動をひとつでも引き起こすことまたはひき起こそうとすることを、組織したり画策したり実施したり参加したり実施すると脅迫した場合には、犯罪とする。

⑴人に的確に向けられた重大な暴力

⑵爆発したり放火したりまたは毒のある物質・放射性の物質・伝染病の病原体などを放ったりすること

⑶交通手段・交通設備・電力設備・ガスまたはその他の燃えやすく爆発しやすい設備を破壊すること

⑷水・電気・ガス・交通・通信・インターネットなどの公共サービスおよびそれらを管理するサーバーなどを深刻に阻害したり破壊したりすること

⑸その他の危険な方法をもって公衆の健康または安全に重大な危害を加えること

前項の犯罪行為で、他人に重傷を負わせる・死亡させた場合、または公的・私的財産に重大な損失を与えた場合には無期懲役または十年以上の有期刑とし、他の状況については、三年以上十年以下の有期刑とする。

 

第二十五条 テロ組織を組織したり率いたりすることは犯罪とし、無期懲役または十年以上の有期刑とし、財産は没収する。積極的に参加した者は三年以上十年以下の有期刑とし、罰金を科す。その他の参加者は三年以下の有期刑・労役・または保護観察とし、罰金を科すこともできる。

 

本法の指すテロ活動組織とは、本法二十四条に定めるテロ活動の罪の行為を実施もしくは実施しようと意図する、または本法二十四条に定めるテロ活動の罪の行為に参加し、または実施の協助をする組織を指す。

 

第二十六条 テロ活動組織・テロ活動人員・テロ活動の実施ために、訓練・武器・情報・資金・物資・役務・運輸・技術・場所などを提供して便宜をはかった場合、または爆発性・毒性・放射性のある物質・伝染病の病原体を製造または違法に所持し、その他の方法をもってテロ活動の実施の準備した場合には、犯罪とする。状況が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑とし、罰金または財産の没収を科す。その他の状況については、五年以下の有期刑・労役または保護観察とし、罰金を科す。

 

前項に定める犯罪行為に加えて、同時に他の犯罪を構成する場合は、処罰の法定刑を比較して処刑する。

 

第二十七条 テロ主義を宣伝すること、またテロ活動の実施を煽動することは犯罪とする。状況が重大な場合には、五年以上十年以下の有期刑とし、罰金または財産の没収を科す。その他の状況については、五年以下の有期刑・労役または保護観察とし、罰金を科す。

 

第二十八条 本節の規定は、香港特別行政区の法律に依拠して、他のテロ活動犯罪について刑事責任を追求したり財産を凍結したりする措置には影響しない。

 

第四節 外国または境外の勢力と結託して国家安全に危害を加える罪

 

第二十九条 外国または境外の機構・組織・人員のために、国家安全に影響を与える国家秘密または情報を窃取・スパイ行為・買収・違法に提供する場合ならびに以下の行為のひとつを実施することを外国または境外の機構・組織・人員に対して求める場合、外国または境外の機構・組織・人員と共謀する場合、または直接的あるいは間接的に外国または境外の機構・組織・人員の指図・コントロール・金銭的な援助またはその他の形式の支援を受けて実施する場合は、等しく犯罪とする。

中華人民共和国に対して戦争を発動して、または武力または武力による威嚇をもって、中華人民共和国の主権・統一・領土の保全に対して重大な危害を加えた場合

香港特別行政区政府または中央人民政府が法律・政策を制定または執行することを阻み妨げ、重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

香港特別行政区の選挙の操作を実施し、破壊し重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

香港特別行政区または中華人民共和国に対して制裁を実施・封鎖・または他の敵対行為を取った場合

⑸各種の違法な方法を通じて、香港特別行政区の住民の、中央人民政府または香港特別行政区政府に対する恨みを引き起こし、重大な悪い結果を引き起こす可能性のある行為

 

前項に定める犯罪について、三年以上十年以下の有期刑とする。罪が重大な場合には無期懲役または十年以上の有期刑とする。

 

本条第一項規定が及ぶ境外の機構・組織・人員は共同犯罪に照らして罪を決定する。

 

第三十条 本法二十条・二十二条に規定する犯罪を実施しようとして、外国または境外の機構・組織・人員と共謀し、あるいは直接または間接的に外国または国外の機構・組織・人員の指図・コントロール・資金の援助またはその他の形式の支援を受けた場合には、本法二十条・二十二条双方の法定刑の範囲内でより重く処罰する。

 

第五節 その他の処罰規定

 

第三十一条 会社・団体などの法人あるいは法人でない組織が本法に定める犯罪を実施した場合には、組織として取り扱い当該組織に罰金を科す。

 

会社・団体などの法人あるいは法人でない組織が本法に規定する罪行を犯し刑事処罰を受けた場合には、責任を持って業務の一時停止を命令、または営業の許可証を取り下げる。

 

第三十二条 本法に規定する犯罪を実施して獲得した援助・収益・報酬などの違法所得および犯罪に用いた、または用いようと意図した資金や道具は、追納・没収しなければならない。

 

第三十三条 以下の定める状況においては、犯罪行為を行った人・容疑者・被告人の処罰を法定刑の範囲内で軽減、または法定刑を下回る軽減をすることができる。刑が軽い人は、刑を免除することができる。

⑴犯罪の過程において、自発的に犯罪を放棄した場合、または自発的に犯罪結果の発生を有効に防止した場合

⑵自発的に自首して、事実に基づいて自身のその他の罪行を供述した場合

⑶他人の犯罪行為を告発し、捜査で事実だと証明される、または他の事件の捜査を進めるための重要な手がかりを提供した場合

強制措置を取られた容疑者・被告人が事実に基づいて供述し、行政・司法機関が把握していない本人の本法に規定する他の犯罪があった場合には、前項第二号の規定に基づいて処理する。

 

第三十四条 香港特別行政区の永久性居民の身分を持っていない人が本法に規定する犯罪を実施した場合には、独立的にまたは付加的に国外追放を適用することができる。

 

香港特別行政区の永久性居民の身分を持たない人が本法の規定に違反した場合、いかなる理由でもそれに対して刑事責任を追求しなかった場合でも、国外追放できる。

 

第三十五条 いかなる人も裁判所を通して国家安全に危害を加える犯罪をしたと判決が出た場合には、香港特別行政区の立法会・区議会に立候補する資格、または香港特別行政区のあらゆる公職または行政長官選挙委員会委員になる資格を失う。かつて中華人民共和国香港特別行政区基本法を保護することを宣誓または声明で誓った場合、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を宣誓または声明で誓った場合も、立法会議員・政府官僚および公務員・行政議会の人員・裁判官およびに他の司法人員・区議会議員は、ただちに該当する職務を失い、上述の職務に立候補または任務に就く資格を失う。

 

前項に規定した資格または職務の喪失は、関係する選挙の組織および管理に責任を負い、又は公職の任免に責任を負う機構が宣言する。

 

第六節 効力の範囲

 

第三十六条 いかなる人も香港特別行政区内で本法に規定する犯罪を実施した場合、本法を適用する。犯罪の行為または結果の一部が香港特別行政区内で発生した場合は、香港特別行政区内の犯罪とみなす。

 

香港特別行政区内に登記された船舶または航空機内で本法に規定された犯罪を行った場合も、本法を適用する。

 

第三十七条 香港特別行政区の永久性居民または香港特別行政区内で設立された会社・団体などの法人あるいは非法人組織が香港特別行政区以外で本法に規定する犯罪を実施した場合、本法を適用する。

 

第三十八条 香港特別行政区の永久性居民の身分がない人が香港特別行政区以外で香港特別行政区を的確に狙って本法に規定する犯罪を実施した場合には、本法を適用する。

 

第三十九条 本法が施行されて以降の行為に、本法の法定刑を適用する。

 

第四条 案件の管轄・法律の適用と手続

 

第四十条 香港特別行政区は本法に規定する犯罪案件に対して管轄権を行使するが、五十五条の規定に定める状況の場合は除外する。

 

第四十一条 香港特別行政区は国家安全に危害を加える犯罪案件の立案調査・検察・裁判と刑罰の執行などの訴訟手続事務を管轄し、本法と香港特別行政区当地の法律を適用する。

 

律政司長の書面による同意なくしては、いかなる人も国家安全に危害を加える犯罪案件で検挙し送検されることはない。ただしこの規定は犯罪に関わりのある容疑者を法律に基づき逮捕したり拘束したりすることを妨げるものではなく、容疑者が保釈を申請することを妨げるものでもない。

 

香港特別行政区が管轄する国家安全に危害を加える犯罪案件の裁判は、公訴手続に従って進行する。

 

裁判は公開で行わなければならない。国家秘密・公共秩序などの状況におよぶ公開しない方がいい審理の時には、報道関係者や聴衆が全部または一部の審理を傍聴することを禁止することができるが、判決結果は一律に公開・公表しなければならない。

 

第四十二条 香港特別行政区の行政・司法機関が香港特別行政区の現行法の中で拘禁・審理期限などの方面に関する規定を適用するときは、国家安全に危害を加える犯罪案件の公正・適時的な処理を確保しなければならず、国家安全に危害を加える犯罪を有効に防止・制止そして処罰しなければならない。

 

犯罪の容疑者・被告人は、裁判官がこの容疑者・被告人は国家安全に危害を加える行為の実施を継続することはないと信じるに足る理由がある場合を除いて、保釈を許可してはならない。

 

第四十三条 香港特別行政区政府の警務処の国家安全維持部門が国家安全に危害を加える犯罪案件を取り扱うときは、香港特別行政区の現行の法律の中で警察などの行政部門が重大な犯罪案件を調査する際に取ることを許可されている様々な措置を講ずることができ、また以下のような措置も講ずることができる:

⑴犯罪の証拠を有する可能性のある場所・車両・船舶・航空機またはその他の関連する場所と電子設備を捜査する

⑵国家安全に危害を加える犯罪行為を行うおそれのある人の旅行証の提出を要求したり出国を制限したりする

⑶犯罪に用いたまたは用いようとした財産・犯罪から得られた収益など犯罪と関係のある財産を凍結したり、制限・差し押さえ・没収・没収して国有財産にすることを命じたりする

⑷ニュースを発信している人またはプロバイダーに、情報の削除または協力の提供を要求する

⑸外国または境外の政治組織に、外国または境外当局または政治組織の代理人に資料の提供を要求する

⑹行政長官の許可を得て、国家安全に危害を加える犯罪を実施するおそれがあると合理的な理由で認められた人に対して、通信の一部を盗聴したり秘密観察をしたりする

⑺合理的な理由で、捜査に関係のある資料を所有しているまたは関連のある物資を管理していると疑われる人員に対して、質問に答えること、または資料または物資の提出を要求する

 

香港特別行政区の国家安全維持委員会は警務処国家安全維持部門などの行政機関が本条第一項に規定する措置をとる際に監督責任を負う。

 

香港特別行政区行政長官香港特別行政区国家安全維持委員会が本条第一項に規定する措置をとるために関連のある実施規定を制定する権限を授与する。

 

第四十四条 香港特別行政区の行政長官は、マジストレート裁判所の裁判官・地区法院の裁判官・高等法院の第一審裁判所と控訴院の裁判官および終審法院の裁判官の中から若干名の裁判官を指名しなければならず、また暫委あるいは特委の中から若干名の裁判官を指名することもでき、国家安全に危害を加える犯罪案件の処理の責任を負わせる。行政長官は裁判官を指定する前に、香港特別行政区国家安全維持委員会と終審法院の首席裁判官の意見を求めることができる。上に述べた指定裁判官の任期は1年とする。

 

国家安全に危害を加える言動をしたすべての人は、国家安全に危害を加える犯罪案件の審理をする裁判官に指名されることができない。指定裁判官の任期中に国家安全に危害を加える言動があった場合には、指定裁判官の資格を終了する。

 

マジストレート裁判所・地区法院・高等法院と終審法院で行われる国家安全に危害を加える犯罪案件に関わる刑事検察手続きは、各裁判所の指定裁判官に分別して処理しなければならない。

 

第四十五条 本法による規定のほかに、マジストレート裁判所・地区法院・高等法院と終審法院は香港特別行政区のその他の法律にしたがって国家安全に危害を加える犯罪案件の刑事検察手続を行わなければならない。

 

第四十六条 高等法院の第一審裁判所が行う国家安全に危害を加える犯罪案件の刑事検察手続きに対して、律政司長は国家秘密の保持に関わる・外交に関連する・または陪審員およびその家族の身の安全の保障などの理由に基づき、証明書を発出して関連する訴訟において陪審員がいる状況で審理を進行する必要はないと指示することができる。律政司長が上述の証明書を発出したすべての時に、高等法院の第一審裁判所は陪審員のいない状況で審理を進行しなければならず、三名の裁判官で法廷を組織する。

 

律政司長が前項に規定する証明書を発出した時には、関連する訴訟に適用する香港特別行政区のすべての法律の条文の中で「陪審員」または「陪審員の裁判」に関わる条文について、(該当の語を)「裁判官」または「裁判官の事実認定の職務」と置き換えることにする。

 

第四十七条 香港特別行政区の裁判所が案件を審理する中である行為が国家安全に影響を与えるかどうか・またはある証拠が国家秘密に関わる問題かどうかに関する事実の認定問題がある時には、行政長官が該当の問題に対して発出した証明書を取得しなければならず、上述の証明書は裁判所に対して拘束力を持つ。

 

第5章 中央人民政府駐香港特別行政区の国家安全維持機構

第四十八条 中央人民政府は香港特別行政区に国家安全維持公署を設立する。中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持公署は法律に依拠して国家安全維持の職責を履行し、関連する権力を行使する。

 

香港特別行政区国家安全維持公署の人員は、中央人民政府の国家安全維持に関連する機関から連合して派遣する。

 

第四十九条 駐香港特別行政区国家安全維持公署の職責は:

香港特別行政区の国家安全維持情勢について分析し研究し判断し、国家安全維持の重大な戦略と重要政策について意見や提案を提出する

香港特別行政区が国家安全維持の職責を履行するのを監督・指導・協調・支持する
⑶国家安全の情報やニュースを収集し分析する
⑷国家安全に危害を加える犯罪案件について法律に基づいて処理する

 

第五十条 駐香港特別行政区の国家安全維持公署は厳格に法律に基づいて職責を履行しなければならず、法律に基づいて監督を受け、いかなる人や組織の合法的な権益も侵害してはならない。

 

香港特別行政区国家安全維持公署の人員は全国性の法律を遵守しなければならないだけでなく、香港特別行政区の法律も遵守しなければならない。

 

香港特別行政区国家安全維持公署の人員は法律に基づいて国家監察機関の監督を受ける。

 

第五十一条 駐香港特別行政区国家安全維持公署の経費は中央の財政によって保障される。

 

第五十二条 駐香港特別行政区国家安全維持公署は中央人民政府駐香港特別行政区連絡事務室・外交部駐香港特別行政区特派員公署・中国人民解放軍駐香港部隊と連絡しての業務と協同しての業務を強めなければならない。

 

第五十三条 駐香港特別行政区国家安全維持公署は香港特別行政区国家安全維持委員会と協調のしくみを打ち立てなければならず、香港特別行政区の国家安全維持業務を監督・指導する。

 

香港特別行政区国家安全維持公署の業務部門は香港特別行政区の国家安全維持に関わる機関と協力のしくみを打ち立てなければならず、情報の共有と行動の協力を強化する。

 

第五十四条 駐香港特別行政区国家安全維持公署・外交部駐香港特別行政区特派員公署は香港特別行政区政府と連合して必要な措置を取り、外国または国際組織の駐香港特別行政区の機関・在香港特別行政区の外国および境外の非政府組織・報道機関の管理と服務を強化する。

 

第五十五条 以下に定める状況のうちのひとつがあった時は、香港特別行政区または駐香港特別行政区国家安全維持公署を経て提出し、中央人民政府が批准し、香港特別行政区国家安全維持公署が本法に規定する国家安全に危害を加える犯罪案件について管轄権を行使する:

 

⑴案件が外国または境外の勢力が介入する複雑な状況で、香港特別行政区の管轄に確実に困難がある時;
香港特別行政区政府が有効に本法を執行することのできない厳重な状況が出現した時
⑶国家安全が重大な現実的な脅威にさらされる状況が出現した時

 

第五十六条 本法第五十五条の規定に基づいて国家安全に危害を加える犯罪案件を管轄するとき、駐香港特別行政区国家安全維持公署が立案・調査の責任を負い、最高人民検察院が関連のある検察機関を指定して検察権を行使し、最高人民法院が関連のある法院を指定して裁判権を行使する。

 

第五十七条 本法第五十五条の規定に基づいて管轄する案件の立案調査・審査起訴・裁判・刑罰執行などの訴訟手続きは、『中華人民共和国刑事訴訟法』その他の関連する法律規定を適用する。

 

本法第五十五条の規定に基づいて案件を管轄する時は、本法第五十六条に規定する行政・司法機関が法律に基づいて関連する権力を行使し、その強制措置・調査措置・司法裁判を取ることを決定するために発行された文書が、香港特別行政区において法的効力を持つ。香港特別行政区国家安全維持公署が取った措置に対して、関連する機関・組織・個人はこれを遵守しなければならない。

 

第五十八条 本法五十五条規定に基づいて案件を管轄するとき、容疑者は駐香港特別行政区国家安全維持公署で第一回の取り調べを受ける日または強制措置が取られた日から、弁護士に弁護人を頼む権利を有する。弁護士は法律に基づいて容疑者・被告人に対して法律的な助けを提供できる。

 

容疑者・被告人は法律に基づいて逮捕された後、なるべく早く司法機関の公正な裁判を受ける権利を有する。

 

第五十九条 本法五十五条の規定に基づいて案件を管轄するとき、いかなる人ももしも本法に規定する国家安全に危害を加える犯罪案件があると知った時は、取り調べの際に事実を述べる義務を負う。

 

第六十条 駐香港特別行政区国家安全維持公署およびその人員が本法に基づいて職務を執行する行為は、香港特別行政区の管轄を受けない。

 

香港特別行政区国家安全維持公署が制定発布した証明書または証明文書を所持している人員または車両が職務を執行しているときには香港特別行政区行政人員の検査・捜査と差し押さえを受けない。

 

香港特別行政区国家安全維持公署およびその人員は香港特別行政区の法律が規定するその他の権利と免除を享受する。

 

第六十一条 駐香港特別行政区国家安全維持公署が本法の規定に基づいて職責を履行するとき、香港特別行政区政府の関連する部門は必要な便宜と協力を提供しなければならず、職務の執行に関する行為に対して妨害があったときには法律に基づいて制止し責任追及する。

 

第六章 附則

 

第六十二条 香港特別行政区当地の法律規定と本法が一致しないときには、本法を適用する。

 

第六十三条 本法に規定する国家安全に危害を加える犯罪案件を処理する関連する司法・行政機関およびその人員またはその他の国家安全に危害を加える犯罪案件を処理する香港特別行政区の行政・司法機関およびその人員は、案件を処理する過程で知りえた国家秘密・商業秘密と個人情報の秘密を保たなければならない。

 

弁護人または訴訟代理人を担当した弁護士は業務を執り行う中で知りえた国家秘密・商業秘密と個人情報を保守しなければならない。

 

共に案件を処理する関連する機関・組織と個人は案件と関連する状況について秘密を保持しなければならない。

 

第六十四条 香港特別行政区が本法を適用するとき、本法に規定する「有期懲役」「無期懲役」「財産没収」と「罰金」はそれぞれ「監禁」「終身監禁」「犯罪所得の没収」と「罰金」を指し、「労役」は香港特別行政区の関連する法律規定の「監禁」「労役センター」「教導所に入所する」を参照し適用し、「管制」は香港特別行政区の関連する法律規定の「社会サービス令」「少年院」を参照し適用し、「許可証または営業許可証の取り消し」は香港特別行政区の関連する法律規定の「登録もしくは登録免除を取り消し、または営業許可証取り消し」を指す。

 

第六十五条 本法の解釈権は全国人民代表大会常務委員会に属する。

 

第六十六条 本法は公布の日から施行する。